第27話

「野々宮くんはわたしの憧れだよ。わたしを助けてくれた人には違いない。だからね、野々宮くんが野々宮くんでいてくれたら、わたしはそれでいい」


 なんだか支離滅裂で、もどかしい。それにも関わらず、野々宮くんは穏やかに目を細めていた。


「突然なに? どうしたんだよ」

「女の子だって、男の子だって、野々宮くんだよ。わたしはどっちの野々宮くんも……」


 口元が震えてそれ以上の言葉が紡げなかった。わたしは、野々宮くんがこんなにも好きなのだと。

 そういうことを、簡単に言ってはいけない気がしたから。

 野々宮くんは夕陽を背にして、めいっぱい笑った。わたしの心臓はまだ、大音量で鳴りっぱなしだ。



 それから野々宮くんは女の子の格好も、男の子の格好もするようになった。

 わたしは結局、どちらの格好をされても野々宮くんの隣にいるだけで落ちつかなくなっていた。こればかりは仕方ないと最近は諦めた。

 ネットで調べたら、そんな状態の女子高生は世の中にごまんといると知った。


「今日は女の子で」


 日曜に待ち合わせた野々宮くんはすっかり冬の装いだった。グレーのダッフルコートと白いロングスカートがよく似合っている。


「似合ってる」

「当たり前だろ」


 以前のようなとげとげしさがなくなり、野々宮くんは柔らかく笑うようになった。そのぶんだけ、わたしは下を向きたくなる。

 わたしは今、男の子として野々宮くんを見ているのだろうか。それとも、実はわたしは女の人が好きで、女の子として見ているのか。


 だけど、そんなのどちらでもいいと思ってしまうくらいに、わたしは野々宮くんという人が好きなのだ。

 野々宮くんはいつもわたしを家の前まで送ってくれる。駅から家まで、いろんな話をした。映画の話、メイクの話、それから野々宮くんの話。

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