第26話

 カフェを出た後は、ふたりで買い物をした。

 それから、今日の野々宮くんはわたしの荷物を持ってくれた。


「……野々宮くん、どうして今日はその格好だったの?」

「なんとなく……って言って、ごまかせやしねえか」


 野々宮くんは頭の後ろをぽりぽりとかく。


「俺さあ、ずっと女の子になりたいって思ってたんだよ。なんでこんな身体なんだろ、なんで俺はきらきらでふわふわじゃねえんだって思いながら生きてた」


 野々宮くんは喉仏を人差し指で撫でる。


「けどさあ、俺、本気で女の子になる覚悟してなかったんだ。つばさが痴漢にあってんの、見てさ、怖いなって思った。女の子ってそういうのと戦ってんだって知ったら、俺は女の子に妙な幻想抱いて、幻想追いかけて、ないものねだりしてるだけなんだって、気づいた」


 女の子の身体を持ちながら、もさいわたしに対しての怒りが、申し訳なさに変わっていったらしい。だから野々宮くんは今でもわたしと登下校をする。


 わたしに対して、というよりはすべての女の子に対しての、野々宮くんなりの罪滅ぼしなのだそう。罪だなんて、大げさだけど。

 野々宮くんからそう言われて、心臓がきゅうと縮むような気がした。


「そのせいもあってか、最近……女の子になりたいって気持ちがわからなくなってる。自分のことなのにさ。あと、玉田だっけ。俺、どうもあいつに嫉妬してる。ああ、俺、どうしようもなく男なんだなって思った。だから今日、この格好で来てみたけど、やっぱり……変だよな。女の子になりたいとかほざいたくせに。なんでも中途半端」


 まっすぐな瞳を向けられると、わたしはなにも言えない。先ほど縮まった心臓が、今度は胸の奥で暴れている。一気に血液が身体に循環するみたいで、目の前がくらくらした。


 野々宮くんはわたしを家まで送ると、じゃあな、と微笑みを残してから去ろうとした。

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