第25話
「あれれ、今日は女の子の格好……」
野々宮くんは男の子の格好をしていた。ベージュのカーディガンと白いシャツ、それからくるぶしが見える黒いパンツ。いつものお姫様や妖精みたいな格好とはまったく違う。
お休みの日は女の子になるものだと思っていたから、驚いた。こういう私服を見るのは初めてだ。
「たまにはいいだろ」
「うん、まあ……。いつもの格好もかわいいのに」
「……隣に立つなら、こっちのほうがいいと思って。ま、今日はこっちの気分だったってだけ」
いつもと違う野々宮くんに、わたしのほうが落ちつかない。まるで知らない人と歩いているようだ。
つい自分の足元ばかりを見て、背中が丸まってしまう。
「なんだよ。そんなにこの格好が嫌なのか」
「そんなんじゃないよ。なんだか、慣れないというか」
「慣れて。背中も曲げない!」
野々宮くんから背中を軽く叩かれて、わたしはぴんと背筋を伸ばす。斜め上には野々宮くんの笑顔があって、わたしはまた目線を下げてしまう。
とはいえ、わたしは単純なのでカフェに着くなり、はしゃいでしまった。
映画のワンシーンをイメージした内装に、登場人物になったような気分で、楽しみにしていたメニューに食いつく。
野々宮くんはそんなわたしを苦笑しながら見ていた。
「野々宮くん、楽しくない?」
「どうして?」
「テンション低いなって……わたしばかり楽しんでる?」
「こう見えて楽しんでるんだけど。つばさのはしゃぎっぷりなんか、すっげえ楽しい」
いたずらっぽい笑みを向けられて、わたしはなにも言い返せなかった。
今日の野々宮くんはいつもと違っていて、どう振る舞えばいいのか迷う。野々宮くんが野々宮くんであることは、変わらないのに。
見た目がいつもと違う。たったそれだけなのに。
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