第20話
「そんなこと思わないよ。わたしといて、むしろ恥ずかしくない? 一応女だけど、ださいし」
「ださいのは、どうにでもできる。見てなさいよ、かわいくしてやるから。鏡見て『これがわたし……?』って言わせてやる」
「そんなありきたりな台詞吐かないよう。漫画じゃないんだから」
その後、野々宮くんに化粧をしてもらって、わたしは本当に『これがわたし……?』と言ってしまった。野々宮くんは腹を抱えて笑っていた。
*
野々宮先生のご指南あってか、鏡の中のわたしはだいぶまともになった。鏡をまっすぐ見る癖がついたら、背中もほんの少しだけ伸びた。
そして、髪の毛を切った。ボブとか似合いそう、と野々宮くんが言ったのを、間に受けて。重かった頭が軽くなり、隠していた部分が露わになる。
お母さんには好評だった。似合うだのかわいいだのと何度も言われて、ちょっと恥ずかしいくらいだ。
「……あ、髪切ったんだ」
髪を切った翌朝、瞬くんと会った。今日は部活の朝練が休みらしい。
雰囲気違うね、と言われて、そりゃそうだろうと思った。薄く化粧もしているし、髪も二十センチは切ったのだから。
「ロングもよかったのに」
「……そうかな。でも、わたしはボブにしてよかったと思うよ。なんだか目の前が明るくなった気がする」
「前は前髪も長かったしな。いや、それもそれで似合うけど」
「うん。ありがとう」
思わず顔も綻ぶ。目の前にはアスファルトの黒だけではなく、街と空と、人が広がっている。この色鮮やかな景色が見られたのは、なにも遮るものがないからだ。
似合うか心配だったけど、野々宮くんの言葉を間に受けてみて、よかったかもしれない。
「しっかし、ほんとにバッサリいったな」
瞬くんの手がわたしの毛先に触れた。急なことだったので、身体が強ばる。瞬くんはそれに気づいて、さっと手を引っこめた。
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