第20話

「そんなこと思わないよ。わたしといて、むしろ恥ずかしくない? 一応女だけど、ださいし」

「ださいのは、どうにでもできる。見てなさいよ、かわいくしてやるから。鏡見て『これがわたし……?』って言わせてやる」

「そんなありきたりな台詞吐かないよう。漫画じゃないんだから」


 その後、野々宮くんに化粧をしてもらって、わたしは本当に『これがわたし……?』と言ってしまった。野々宮くんは腹を抱えて笑っていた。



 野々宮先生のご指南あってか、鏡の中のわたしはだいぶまともになった。鏡をまっすぐ見る癖がついたら、背中もほんの少しだけ伸びた。


 そして、髪の毛を切った。ボブとか似合いそう、と野々宮くんが言ったのを、間に受けて。重かった頭が軽くなり、隠していた部分が露わになる。

 お母さんには好評だった。似合うだのかわいいだのと何度も言われて、ちょっと恥ずかしいくらいだ。


「……あ、髪切ったんだ」


 髪を切った翌朝、瞬くんと会った。今日は部活の朝練が休みらしい。

 雰囲気違うね、と言われて、そりゃそうだろうと思った。薄く化粧もしているし、髪も二十センチは切ったのだから。


「ロングもよかったのに」

「……そうかな。でも、わたしはボブにしてよかったと思うよ。なんだか目の前が明るくなった気がする」

「前は前髪も長かったしな。いや、それもそれで似合うけど」

「うん。ありがとう」


 思わず顔も綻ぶ。目の前にはアスファルトの黒だけではなく、街と空と、人が広がっている。この色鮮やかな景色が見られたのは、なにも遮るものがないからだ。


 似合うか心配だったけど、野々宮くんの言葉を間に受けてみて、よかったかもしれない。


「しっかし、ほんとにバッサリいったな」


 瞬くんの手がわたしの毛先に触れた。急なことだったので、身体が強ばる。瞬くんはそれに気づいて、さっと手を引っこめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る