第21話
*
野々宮くんはわたしの髪型を褒めてくれた。似合うって思ってたんだ、とポケットに手をつっこんだまま笑っていた。
切ったばかりの毛先が頬に当たってこそばゆく、わたしは毛先を指でそっとよけた。
「最近、表情にも自信がみなぎってきたような。猫背もマシになったんじゃね?」
「そうかな。自分ではよくわかんないけど、もしそうなら野々宮くんのおかげだよ。ほんとに感謝してるんだ」
「そ、そう。べつに俺なんもしてねえけど」
「いえいえ。鏡を見る癖がついたので。なんとお礼をすればよいものか」
ふざけた口調だけども、わたしは野々宮くんに本当に感謝している。
鏡を見ながら髪の毛の跳ね具合を気にしている自分が、少しだけ好きだ。こんな気分になるのは、初めてだった。
今のわたしは野々宮くんの隣に立てるくらいになれているのか、自分ではまだわからない。だけど、そうでありたいと、そのためにはどうすればいいかと、自分で考えられるようになった。
背筋を伸ばした先の景色は、野々宮くんなしではきっと見られなかった。
「お礼……あ、あのさ、変なこと頼んでもいいか?」
「なあに? 内容によるけど」
「女子の制服着せてくんない? 一度だけでいいから」
「なんだ、そんなことかあ。いいよ」
野々宮くんは目をぱちくりさせた。
野々宮くんは女の子になりたい人だし、休みの日は女の子の格好をするし、女子の制服を着たいといっても驚かない。
ただ、わたしの身体に合わせたサイズだから、野々宮くんが着られるかはさておき。
「……気持ち悪くねえの?」
「どうして? いつも女の子の服を着てるじゃない。制服も似合うと思う」
「……七瀬さんってすげえな。でも、嬉しい。一度着てみたかった」
学校では着たくないと言うので、野々宮くんをわたしの家に招いた。休みの日だったから、野々宮くんは女の子の格好でやってきた。
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