第34話

「いきなりごめん……ばっちりのタイミングだと思ったんだけど……」

「いや、うん……ふふ、タイミングおかしすぎだろ。なんで今なんだよ……あっははは……!」


「……ほんとは早く言いたかったのかもしれない。わたし、だれかに好きだって言う日が来るなんて思わなかった。わたしが好きだなんて言ったら、迷惑になるかもしれないのに、言いたかったの。不思議だよね」


 微笑む手前くらいの顔で、野々宮くんは骨張った指を組む。


「それはわからんでもない。俺、思うんだ。好きだって誰かに言えるときって、少なくとも自分のことを、ちょびっとでも好きだって思えたときなんだよ」


 野々宮くんの言葉が本当ならば、わたしは……。

 そして、野々宮くんは……。


「……って、俺くっせえな」 


 組んだ手を解いてから、野々宮くんはそわそわと自分の爪を見る。今日はベビーピンク色のマニキュアを塗り、先端には大粒のラメが光っていた。その動きを、わたしはじっと目で追う。


 わたしの視線に気づいたようで、自分のほうに向けていた爪をわたしの目の前に差し出す。しかも両手。なんだかおばけみたいなポーズになっていた。


「わたしの爪も、今度塗ってほしい」


 野々宮くんのようなきらきらの爪も素敵だし、くすんだ色も捨てがたい。

 いずれにせよ、野々宮くんはわたしの爪をきれいに彩ってくれるだろう。目を閉じて想像する。


「うん。いいよ。好きな色、考えといて」


 野々宮くんはわたしの指先を包むように撫でた。

 この先もずっと、野々宮くんにはわたしの爪を彩ってほしい。だけどそれを伝えるのはもう少し先だ。

 わたしが野々宮くんの爪を塗れるくらいになったら、伝えよう。

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きみを彩るその色は 来宮ハル @kinomi_haru

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