第13話

 野々宮くんはペットボトルの表面について滴を指でなぞった。コーラの色に肌の白が浮き立っている。とてもきれいな指先だと思った。


「七瀬さんはすっごい猫背で、髪の毛もぼさぼさの伸びっぱなしで、いつも下向いてて。俺だったら、もっとその身体をきれいに扱えるのに。マジで身体よこせよって、勝手にイラついてた。アホだよなあ、俺」

「ご、ごめん」


「謝るのは俺のほう。子どもっぽいことしてごめん。勝手にキレて、やつ当たりしてさ」

「ううん。わたしが、その……こんなやつだから。今でもそう思ってる? わたし……」


 わたしは今でも猫背だし、下ばかり見て生活している。額ににきびもある。野々宮くんみたいにきれいにお化粧もできないし、服も同じようなものしか着ない。嫌いな胸を隠すことばかりを考えた、服。


 自分がださいってことはよく知っているし、だからこそおしゃれな野々宮くんに横に立っているのは、本当はとても恥ずかしい。

 野々宮くんはコーラを飲む。その指先が薄いピンク色に塗られているのに気づいた。わたしも同じ色にしてみたいと、その瞬間に強く思った。


「さすがにその答えは察しろよ。嫌いなやつと休みの日まで会わないよ。俺、七瀬さんと登下校すんのも、図書館で勉強すんのも悪くないって思ってる。なあ、今度は買い物行こ。この格好でだれかと出かけるの、夢だったんだ」


 わたしはこっくりと頷く。野々宮くんの爪を指差して、これが欲しいと伝えた。わたしの指では、野々宮くんのように映えないかもしれないけれど。

 野々宮くんは「いいね」といつもより少し上ずった声で言った。



 二学期の始業式。

 試験を明日に控えているから、昨日は夜ふかしをしてしまった。大あくびをしていたら、マンションの駐輪場からちょうど人が出てきた。

 真っ黒に日焼けして、髪の毛を短く刈り、こぼれてしまいそうな大きな目を向けた──瞬くんだ。

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