第12話

 そばのベンチに座ってコーラを飲む。普段、あまり炭酸飲料を飲まないので、舌の上ではじける泡に戸惑った。飲みこんでも、泡のひと粒ひと粒がずっと跳ねている。


「……なんだか、不思議だな。野々宮くんと、こんなところでジュース飲んでるなんて」

「なんでそう思うの」


 言っていいかな、と迷った。もごもごと口の中で泡と言葉を溜めこむわたしを見て、野々宮くんは目を細めた。


「なに言いたいのか当ててやろうか。野々宮くんはわたしのこと嫌いだと思ってた、だろ?」

「えっ。どうして……」


 ふふ、としたり顔を見せると、「嫌いだったよ」と野々宮くんは言った。あまりにストレートな言葉に、脳天をぶん殴られた気分。


「……わたし、野々宮くんになにかしたかな」

「ううん。俺が勝手に嫌ってた。七瀬さんは、俺の欲しいもの持ってるのに、なんでそんなに下ばかり向いてんだろって。ひとりでキレてた」

「欲しいもの?」


 野々宮くんは脚を組む。今日は膝の部分が破れた黒いスキニーデニムにすみれ色の透け感のあるシャツを着て、黒髪のボブのウィッグをかぶっている。


 相変わらずかわいくて、なんでも持っているように見えるのに。野々宮くんが持っていなくて、わたしが持っているもの? ……なんだろう。


「……女の身体」


 野々宮くんは細い太ももをぱちぱちと叩いた。ぼってりしたわたしの太ももとは全然違う、細くて引き締まった太もも。


「俺ね、昔から女の子になりたいって思ってた。服装だけじゃなくてさ。七瀬さんみたいな身体になりたかったんだ」


 重大な秘密を知ってしまったかのように、わたしの胸はずんと重くなる。手のひらに汗も滲んだ。心臓も、どきどきする。


「……我ながらきもいんだけど、まあ、その……俺が思う理想の女の子の身体っていうか。俺が女の子だったら、その身体になりたいって思う。なのに……」

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