第11話

 よりによって額の真ん中に赤い大きなにきびができた。いつもはこめかみの辺りにできるのに、珍しい。


 あまりに目立つので、前髪で隠そうとするけど、無駄な抵抗だった。隙間から見えてしまう。くしで前髪を重く作ってみたけど、にきびの存在感は消せなかった。


 わたしの苦労など知る由もない野々宮くんは、わたしの額を指差して「潰したくなるわー」と笑った。


 お盆が過ぎて、もうすぐ夏休みも終わりを迎える。二学期初っ端からある定期テストにむけて、わたしたちは勉強に励んでいた。

 野々宮くんは英語が苦手で、夏休みの補習中も「英語マジでやだ」とずっと愚痴っていた。だけどその分、数学が得意だ。


 わたしは野々宮くんとは逆で、数学が嫌いで英語はそこそこだ。

 じゃあ宿題を見せあえばいいね、と野々宮くんが言い始めたのをきっかけに、ときどき図書館で勉強していた。


 学校の外で会うとき、野々宮くんは女の子の格好をしている。いつもおしゃれでかわいい。

 野々宮くんの隣に立つと、いたたまれなくなって消えたくなる。額のにきびはその気持ちを強めた。


 わたしは何度も前髪を手で押さえている。手品みたいに、手をどけた瞬間ににきびが消えたらいいのに、当然だけどそんなことは起こらない。


 野々宮くんは眉毛を下げ、わたしを見ていた。「怒った?」と小さな声で言うので、わたしは首を横に振った。ごまかすように、喉が渇いたと伝えると野々宮くんはよし、と言って勉強道具をトートバッグの中に片づけてしまった。


 閲覧スペースの外に出ると、野々宮くんは自販機の前に立つ。お金を入れると、選べ、と言った。


 迷っていたら自販機がしびれを切らし、お金が戻ってくる。わたしが考えている間に野々宮くんはコーラを買っていた。わたしもとりあえず同じものにした。

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