第14話

 瞬くんは同じマンションに住んでいる同級生で、小さい頃はよく遊んだものだ。

 昔から運動神経がよく、野球部に所属している。

 普段は部活で朝早く夜遅いから、同じ学校に通っているにも関わらずわたしと顔を合わせることはほとんどない。


「おはよ」


 瞬くんに声をかけられて、わたしは蚊の鳴くような声で挨拶を返した。その瞬間、ぶわっと額に汗をかいた。


「暑いなー」

「そうだね……」

「なあ、つばさは勉強した? 今回のテスト、範囲広すぎじゃね?」

「うん……」


 瞬くんは自転車を押しながら、わたしの少し前を歩く。猫背でべたべた歩くわたしにスピードを合わせようとしてくれている。自転車のタイヤの音と、靴音が微妙に噛みあわなくて、歩くペースが狂う。


「なあ、噂で聞いたんだけど、野々宮と付き合ってるってマジ?」


 背中から突然水風船をぶつけられたみたいに、さっと身体が冷えた。のに、脇と額と手のひらに汗が噴き出した。

 わたしはぶんぶんと首を横に振る。だよな、と瞬くんは力を抜くようにして笑った。どうしてそんな話になっているのだろう。


 いや、待てよ。

 男女(一応)がふたりで登下校して、お休みの日も遊んでいるとなると、周りから見れば付き合っていることになるのだろうか。


 しまったなあ。野々宮くんに迷惑をかけてしまうし、そろそろ登下校は大丈夫だと伝えなくては。最近はなんとか電車に乗れるようになったことだし。


 わたしは二日前にマニキュアを塗った指先を見た。野々宮くんが選んでくれた薄いピンクのマニキュアだ。一度塗りだったら学校でもバレないよと言われて、試しに塗ってみた。


 野々宮くんの指にほんの少し近づいた気がした。

 野々宮くんは自分のことをきもいとか、子どもっぽいとか言っていたけど、わたしも大概だ。

 だけど──。


「ちがうよ。野々宮くんは……」

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