第15話

 痴漢にあったわたしを気遣って登下校をしてくれているだけ。と言おうと思ったけど、喉の真ん中あたりで引っかかった。

 あと、痴漢にあった話を瞬くんにしたくなかった。なんとなく。


 駅に着くと入口で野々宮くんが待っていた。いつもはホームで待ち合わせなのに、今日はどうしたのだろう。


 わたしと瞬くんに気づくと、不思議そうな顔をしていた。今日は三人で登下校になるのかと思いきや、瞬くんは自転車を置くからとわたしから離れた。じゃあな、と残して。


「あれ、誰? うちの制服だよな」

「えっ……知らないの? 野球部の玉田瞬くん。隣のクラスだよ」

「知らん。他人に興味ないもん。自分のクラスの人すら未だに危ういのに」


「ええ……。瞬くん、わりと有名人なのに」

「有名人? なんかやってんの?」


 わたしが言うのもおこがましいけど、野々宮くんはもっと周りに興味を持ったほうがいい気がする。


 瞬くんは二年生ながらすでにレギュラー入りしていて、攻守どちらもこなす選手として期待されている。

 それでいて、明るくていつも人の輪の中心にいるタイプだから、みんなわりと瞬くんのことは知っているようだ。


「で、なんでそんな男子と七瀬さんが仲よく登校してんの」

「たまたま会って。同じマンションに住んでるから」

「ほお。幼なじみってやつ?」


 わたしが頷くと、野々宮くんは無愛想ににふーん、とだけ返した。

 それよりも今日はなぜ駅の前で待っていたのだろう。尋ねると、野々宮くんはなんとなく、とこれまた素気なく返した。


 ホームでしばらく待っていたら電車が到着する。熱風が勢いよく顔に当たった。ホームの端のほうに瞬くんがいて、一瞬目が合ってから互いに逸らした。


 野々宮くんは電車に乗るとわたしを壁側に寄せて、壁になってくれる。このおかげでわたしは電車に乗ることへの恐怖が拭えているけれど、さすがにもう迷惑はかけられない。

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