第23話

 部活帰りの瞬くんは頬がほんのり赤くなっていた。日中は日差しがまだ強いから、すぐに焼けてしまうのだろう。


 瞬くんは大きな目をぐりぐりと動かして、野々宮くんを頭から爪先まで見ていた。

 野々宮くんだと気づいていないようだけど、女の子の格好をしている男の子だと認識はしているみたいだ。


「えーっと……その人、友だち?」

「と、友だちなの。電車来ちゃうから、行かなくちゃ。じゃあね、瞬くん」


 瞬くんは、おう、と短く返事をした。瞬くんの影が離れていくのを確認して、わたしは胸を撫でおろした。

 野々宮くんはまっすぐに前を向いたままで、ひと言も話さない。駅に着くところで、ねえ、と小さく言った。


「つばさ、って俺も呼んでいい?」

「え? うん、どうぞ」

「だめって言われたらデコピンしようかと思ったわ。じゃあな。今日はありがと。また学校で」


 野々宮くんは改札をくぐる。一度振り返ってから、手を振りホームの階段をすたすたと上る。その後ろ姿をわたしはじっと見ていた。

 つばさ、と呼んだ野々宮くんの声が、熱を持って耳の奥に残っていた。

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