第3話

 今日も今日とて、わたしはひどい猫背だ。薄汚れたシューズと、膝の真ん中あたりにかかるスカートの裾を眺めながら過ごす。


 放課後になって、押しつけられた委員会活動に顔を出す。

 帰宅部だという理由で、美化委員会の委員に任命された。部活をしている子は、部活を優先させてもらえる。要は、帰宅部なんだから暇でしょってことだ(まあ暇ではあるけど)。


 委員といっても、手洗い場のハンドソープを補充したりだとか、掃除用具が壊れていないか点検したりだとか、あとは校内掲示用のポスターを描くくらいだ。そして、月に一度の美化委員会に出席して、委員長から活動報告がされるのを、ぼーっと聞くだけ。


七瀬ななせさん。ボールペン貸して」


 隣に座っていた野々宮ののみやくんがわたしに向かって右手を差し出している。筆記用具も持たずに委員会に出てくるなんて、やる気なさすぎだろ。呆れているのを悟られないようにして、わたしは一本手渡した。


 野々宮ののみや空也くうやくん。同じクラスの男子生徒で、肌がとにかく白くて、にきびができているのを見たことがない。

 いつも涼しげな顔をしていて、同い年とは思えないくらいに落ちついている。友だちと騒いでいるのも、あまり見たことがないかも。


「なに? ペン貸すのがそんなに嫌なのかよ?」


 ガラス細工がぴしっと音を立てるみたいに、野々宮くんは眉間にしわを寄せる。

 わたしは震えあがり、無言で首を横に振る。野々宮くんはクラスでもおとなしいほうだけど、なんだか当たりが強い。

 きっとあれだ、ブスに厳しい男の子なのかもしれない。


 委員会が終わった後、野々宮くんはわたしの前にペンを転がした。施しを受ける奴隷みたいに、わたしは野々宮くんを見ることなくそれをペンケースの中にしまいこむ。


「……あんたってさあ、見ててマジでムカつくわ」

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