舞台裏②

 店の奥が調合をするスペースのようで、いかにも調合に使うような大きな鍋がそこにあった。薬品のような、いろんなものがごちゃまぜになった複雑な匂いがする。今回は基本的なポーションであるらしい、回復効果を目的としたものを作るようだ。


「回復効果のあるポーションを作るには、基本的には癒し草がベースになる。そこに目的に応じてキノコを入れるんだ」


 一本の瑞々しそうな草。そして二種類のキノコを棚から取り出し、フォールハイトさんは慣れた様子で簡単な講義を始めた。


「魔力を回復するなら月光茸、体力を回復するなら──」


「──太陽茸……」


 言葉が、口から飛び出していた。本で見た知識では、ない。そんなものを読んだ記憶は無いから。フォールハイトさんが呆けたまま目を丸くしているが、一番驚いているのは他でもない、俺自身であった。


「……あれ、なんで俺、今勝手に……」


 肩を掴まれる。興奮が滲むその瞳には期待の色が浮かんでいた。「覚えてるの」切に迫る声。心臓が早鐘を打ち始める。何かに、辿り着けそうな気がして。頭が痛い。だけど、思考を止められない。


「見たことがある、気がします」


 どこで?


 俺は、前にもこれを作ったことがある。初めてなんかではない。旅に出るという親友──ルーカスのために、少しでも力になりたくて。フォールハイトさんが、考えてくれたのだ。俺たちのために。


「ルーカスのために作ったんだ」


 彼の瞳に、光が宿っていく。


 それで、それで。最後に魔力をファールハイトさんが込めて、その光景が、魔力の無い俺にとっては夢みたいで。……どんな光景なんだっけ。頭が割れんばかりに痛みを訴える。


「実際に、作ろう。ほら、材料を刻んで」


 言葉に従う。ああ、俺はやっぱりこの光景を見たことがある。あのときと同じで、彼が隣に立って教えてもらいながら調合を進めるこの光景を。鍋の中でよくわからない色になった内容物も、形容しがたい匂いにも今は動じることはない。

 最後の仕上げだよ。

 そう彼が静かに言って、手を翳す。ああ、そうだ。大切な幼馴染のことも祈ったのだった。彼の手が重なる。その優しい温度に、不意に泣きそうになった。あたたかい。


 きらきら舞う黄金色の光の中。窺うような、どこか不安げな彼の顔を見る。


「フォールハイトさん」


 いいや、違う。


「いや──ハイトさん。……ああ、やっと、やっと全部思い出せた……!」


 俺に、夢を与えてくれた人。

 涙でぐしゃぐしゃになった顔にも構わず、俺は彼へと飛びついた。

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