幼馴染と
「リク!!」
「あ──ルーカス……」
ポーション屋で働き始めてから、数日が経った頃。……とは言っても、まだ本を読んで素材や調合などの勉強をしているくらいだから、働き始めたというと語弊があるかもしれない。
両親へ意を決して話せば、俺の憂慮とは裏腹に、父と母は優しく受け止めてくれた。その温かさに幼子のように泣き出した俺を、抱きしめたのだ。
ポーション屋で働くという話も認めてくれて、それからは毎日森へと通った。お客さんはまだ来ていないが、彼が言っていた通り本当にたまに来る、らしい。両親はどうしてもというのでフォールハイトさんへ挨拶をしたが、あのやる気のない態度を父と母は笑って受け入れていた。なにはともあれ、反対はされなかったのでよしとする。
ルーカスとは、顔を合わせる機会もなかった。お互い、無意識に避けていたのかもしれない。
ふたりして何も言えず、ぎこちない空気が流れる。しかし、勇気を振り絞って口を開いた。
「……この前はごめん。逃げちゃって……」
「……いや。俺も、追いかける勇気が出なくて……ごめん」
謝らなくてもいいのに。あのときは、ひとりで考えごとをしたかったのだから。ルーカスが、優秀な幼馴染が隣にいたら──矮小な自尊心が膨らみ、自己肯定感が下がった末、自己嫌悪で消えたくなってしまっただろうから。
俺の性格の問題だ。全くもって、優しい彼が悪いわけではない。それも謝りたかったが、そうすると俺が悪い、いや俺が、と水掛け論になるだろうから口を噤んだ。
「魔力、無かったんだな」
「……うん」
重々しく頷く。俺よりも痛切な表情で、ルーカスはそっか、とだけ呟いた。
友だち想いの彼のことだ、自分のことのように受け止めてしまったのだろう。だからきっと、今日まで俺に話しかけなかった。その間ずっと考えていたのだ。伊達に幼馴染をやっていないから、それくらいはわかる。本当に、優しい奴だ。
彼を安心させたくて、視線を伏せたルーカスへ言葉を続ける。
「でもさ、悪いことばかりじゃなかったんだ」
「……? 何かあったのか?」
彼には何があったのか、予想もできないだろう。だって俺にとっても想像ができないことがあの日は起きたのだから。何だか自慢したくなって胸を張る。
「そう!」
にっと口角を上げる。不思議そうなその顔に、俺は自信満々に口を開いた。
これを聞けば、ルーカスも安心するだろうと。
「俺、ポーション屋で手伝いするんだ!」
「…………は?」
……あれ。
思考が停止した。だって、頭の中で思い描いていた反応と、正反対で。上がった口角が、刺々しい返事で固まる。
いつになく険しい表情。肩をがし、と強い力で掴まれる。
「それ、どういうことだ。詳しく教えろ」
聞いたことのない、低い声だった。
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