対峙

 しどろもどろになりながら、訥々と説明をする。


「森で出会ったんだ。ポーション屋を営んでる人でさ、俺を雇ってくれるって言ってくれて。魔法を近くで見られるし、受けることにした」


 怪訝な顔で俺を見つめる。居心地が悪い。視線を逸らすことは許されないような空気だ。



「……そいつ、本当に大丈夫な人なのか」


「……多分?」


「はあ!? おま、多分って……!」


 確証は無いけれど。今のところ、後ろめたいようなことをしている場面も見ていないし。思いつきか何かで俺を拾った、変な人という認識くらい。

 本当の本当に大丈夫なのか、と問われれば、あまり詳しく知らないのだから断言はできないだろう。


「大体、森にポーション屋があるなんて聞いたことない。怪しい」


「まあ……それは、俺も初めて見たんだけど」


 余計に眉間にシワができた。これは、この場では収まらなさそうだ──と思うや否や、案内しろ、と言われ、断る理由も言葉も思いつかず。脳内でフォールハイトさんへ謝った。……後でちゃんと謝ろう。


 ***


 からん。扉を押せば、来客を報せるベルが音を奏でる。

 暇を持て余していたらしいフォールハイトさんは、べったりとカウンターにつけていた顔を緩慢に上げた。


「お。いらっしゃー……なに。穏やかじゃないな」


「……こんなとこに、本当に店があったのか」


 ルーカスが驚きを孕んだ声とともに、怪訝な顔つきできょろきょろと店中を見回している。そして店主であるフォールハイトさんを見ると、きっ、と表情をより険しくした。


「誰、そのちびっ子」


「誰がだ!!」


 吠える幼馴染を宥める。今だけでいいから、あまり刺激する言い方をしないで欲しい。確かに、ルーカスは俺よりほんの少し背が低いけれど。


「幼馴染のルーカスです。ええと……ここを見てみたいって言ってたので」


「店主がどんな怪しい奴なのか知るついでにな」


「わあ、失礼」


 精一杯濁して要件を伝えたが無に帰した。歯に衣着せぬ言い方だ。ちょっと、と脇腹を小突いて制したが、彼の勢いは止まらない。

 かつかつと足音を立てて距離を詰め、言葉を発するべく息をひとつ吸った。


「なんで街の誰もこの店を知らない。客だってあまり来ないんだろう、そんな様子でどうやって経営を続けているんだ。そもそもちゃんと経営する気はあるのか? 娯楽でやっているにしたってその金はどこから来ている。リクを雇っていける将来性は──」


「あ、まって。普通に耳が痛いかも」


 押されている。次々と連ねられる疑問に、店主である彼は耳を塞いで遮断した。……ルーカスは、俺よりも余程俺のことを考えているようだ。

 将来性の面についてはしっかり答えられるくらいでいて欲しいが、今は噛み付くような勢いで食ってかかる幼馴染を止めるのが先だろう。


 ちょっと、と前に立つ彼の裾を掴んで引く。むっとした表情のまま振り向いた。


「ルーカス、失礼だよ。フォールハイトさんは俺を拾ってくれた人なんだから!」


 そう言うと、より面白くなさそうな色が浮かぶ。


「だって、ずるいだろ」


「……ずるい?」


 何がだろう。疑問に思って問えば、ルーカスは僅かに視線を惑わせた。


「リクは、俺が……」


 一拍、間を置いて。意を決したように、彼は真っ直ぐに俺を見て唇を開いたのだった。



「一緒に冒険者になろうって、誘おうと思ってたのに!!」

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