【小話】魔力のこもったキノコを食べてみた!
いつも通り、本を読んで面白そうなポーションを探していたときだった。なにか引っかかるものを覚えて、ひとつの材料へと目が留まる。
それは魔力を蓄えているというキノコ──アルカナグロウ。光に当てると、青白く輝く。先日、フォールハイトさんと採集へ行った際に採ってきたものだ。
ふと。俺は、ひとつの案に辿り着いた。天啓がひらめいたといってもよいだろう。
「これ、食べれば魔力を得られるんじゃないのか」
ひとかけだけだ。大きく口を開けて齧る、なんてことはしない。
棚に入っている材料をひとつ取り出す。間違いない、これだ。似ているキノコでもない。何度も確認を重ね、確証を得る。
そうして──口元へ恐る恐る運んだ。
柔らかい繊維を歯で噛み切って、弾力のある身を咀嚼する。当たり前だが、特段味は無かった。なにか調味料でもかければよかったかもしれない。
そうして、嚥下をしてからたった数秒ほど経ったとき。
これは──体の中に何かが満ちていく。すごいぞ。これが、魔法を使える人々と同じ感覚だろうか。
今なら、何でもできる気がする。高揚と万能感が溢れる。そうだ、もし手を翳せば、派手な演出のついた魔法なんかが出てくるような気さえするのだ!
『知らん……なにそれ……怖……』
とフォールハイトさんには言われるかもしれない。人智を超える力が手に入ってしまう可能性さえある。なんやかんや偉大になって、すごいことになってしまったらどうしよう!
手を前方に翳し、頭の中に浮かんできた格好いい文字列を口にしようと、口を開けば──!
「かふっ」
咳と共に出た、多量の血。……えっ。
咳が止まらない。嘔吐きまで出てきて、視界に涙が滲んだ。喉を押さえがたんと膝をつく。
「う、ゔぉえ……!」
「ねえリクく──え、は、ちょ、どうした!?」
部屋の入口から聞こえた、フォールハイトさんの声が遠い。背中をさすられる。彼が触れた位置がぼう、と熱くなり、大きな咳がひとつ出たかと思えば、手のひらに吐き出したキノコの残骸が落ちた。
息を肩で切る。多少気分は楽になった、ような気がする。
「はー……は、あぁ……」
「落ち着いた? 簡単だけど回復魔法を使ったから、大丈夫だとは思うんだけど」
彼が助けてくれたらしい。泣きそうになりながら、なんとかお礼を言うと、不安げな顔が俺を見つめた。
「どうしたの。……何か、病気?」
いつになく、心配そうな表情で。……言いづらい。アホな想像に駆り立てられてノリでキノコを食べました、だなんて。張り倒されてもおかしくないだろう。
だが──言うしかない。せめてそれが失敗を犯した責任というものだ。ここで嘘をついては、彼を裏切ることになる。
そうして俺は。しどろもどろになりながら、本当にアホな成り行きを話すことになったのだった。
「キミ、そんなおバカだった?」
腹の底から出たようなため息をついて。腕を組んだまま、呆れを隠すこともなくフォールハイトさんは正座する俺を見下ろした。
たんたん、とつま先で何度も床を踏みながら、棚から取り出したら件のキノコを手の上で弄んで言葉を続けた。
「あのね、これは魔力が強すぎるの。煎じるときも水で何っ倍にも薄めないと人体には毒ってくらいの魔力だよ。魔力が無くて慣れてないキミが食べたらどうなるかくらい、わかるよね?」
キミのことだし本も読んだんでしょ、と言い、厳しい語気のまま問い詰められる。
ぐうの音も出ない。目立った毒の成分は入っていないようだから、気を抜いていたのだ。隅々まで読めばきっと注意書きはされていたのだろう。……魔力に手が伸びてしまい、注意が行き届かなかった。
「……すみません……魔力が欲しすぎて、ろくに目に入ってませんでした……」
言葉を聞くと、じっと俺の顔を見つめて。またひとつ大きなため息をつき、彼は唇を開いた。
「……今日は調合も勉強もしちゃダメ。反省しなさい」
「そんな……」
「当たり前でしょうが。そんな調子でなにかされたら怖いよ」
……本当に、申し訳ないことをした。今日は散々彼に迷惑をかけてしまった事実が胸にのしかかって、改めて謝罪を口にする。
「……すみませんでした……」
「ん。しばらくはひとりで材料触るのもダメね」
「ぐええ……」
「……どれだけ心配したと思ってるの」
魔力に靡いて材料を口にしない。幼児のような約束事を胸に刻みながら、俺はしばらくフォールハイトさんに監視されるのだった。
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