襲われていた青年と
扉の前、安全なことを確認してから治療を受ける。響いていた鈍痛も嘘のように一瞬で無くなり、立つことも苦痛でなくなった。
また感謝を口にしてから、扉を開く。中には、先ほど襲われていた青年がいた。憂慮に満ちていた表情がこちらを認識したようだった。
「っああ、よかった……無事だったんですね!」
「あはは、なんとか」
ぱあっと表情を明るくさせ、駆け寄ってくる。俺の言葉に従って、ここへ辿り着いてくれたのだ。それに、ハイトさんまで呼んできてくれた。ありがたいことだ。
しかし表情をすぐに暗くさせ、申し訳なさそうに彼は頭を下げた。片目は髪で隠れていて、今にも泣き出しそうに、大きなその瞳が潤んだ。
「……本当に、ご迷惑をおかけしました。どう償えばいいか……」
「い、いえ、そんな! 無事だったならなによりで、こっちは全然──ぐえっ」
軽く拳骨が落ちた。走った衝撃と響く痛みに、間抜けな声が出て頭を押えうずくまる。痛い。痛すぎる。割れるかと思った。
「わぁっ!? え、ええっ!?」
突然落ちた鉄槌に、あわあわと青年がうろたえる雰囲気を肌で感じ取った。
「あーごめんね。うちの子、ボロボロなのに無理してて」
「へ──ど、どこかお怪我はありませんか!? あああ、僕のせいで……!」
「大丈夫、です……もう治りましたし、今のゲンコツの方が痛かったんで……」
「加減はしたからね。……まあ、座りなよ。キミもずっと立って待ってたんでしょ」
悩む素振りを見せてから、こくりと小さく頷く。ハイトさんに促されるまま、俺たちは店の一角で俺たちは腰を休めたのだった。
***
「僕は……ジェイバーと、いいます。最近街に越してきました……」
ふわふわとした薄緑色の髪。隠れていない片方の目が、時折不安げにこちらを見上げる。
ぽつぽつと言葉を繋ぐその子は、なんとも純朴そうで、小動物のような雰囲気を感じさせた。俺よりも少し小さな身長も、それに拍車をかけているだろう。
「ええと……ジェイバーさんは、怪我とかしてないですか?」
「擦り傷くらい、かな……大丈夫です」
言葉を受けて、ハイトさんが立ち上がる。
「なら回復薬持ってくるよ。じっとしてて」
「え、そんな……!」
「いいの。座ってなさい。リクくんと話でもしてて」
きっぱり言葉を突きつけられた。浮かせた腰を、下ろす。本当にいいのか悩んでいるようで、その遠慮具合に頬が緩んだ。
「どうしてこんな森にいたんですか?」
「母さん、いつも忙しそうだから。お花でも摘んできて見せたら、少しは癒されるかなって……」
「はは……優しいんですね」
「そ、そんな! そんなことない、です……! それと、敬語じゃなくて結構です。その方が嬉しいから」
ぶんぶん手を振って否定した後、彼は俺の顔を見上げた。お言葉に甘えることにする。
「リク、さん……」
名を呼ばれる。
「とっても、勇敢ですね……僕なんかを助けるために、飛び出してきてくれるなんて……」
勇敢だなんて言われるほどではない。考えるよりも先に体が動いていたのだから。
しかし──僕なんか、という言い方が妙に引っかかった。いつもなら気にもしなかっただろうが、その子の言葉には妙に感情が篭っているように思えて。
視線を数秒伏せたあと、ゆっくりとこちらへ目を合わせた。
「僕、魔力が人より少なくて……虐められてました。役立たずだって」
「……え」
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