魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)

運命の日

「リク!」


 街の教会へ走る最中、聞き慣れた声が自分の名を呼ぶ。振り向けば、幼馴染──ルーカスが家の扉から飛び出たところらしかった。オレンジの髪を煌めかせて、大きく声を張っている。


「魔力の保有量を調べてもらうのか!?」


「そう! 今から行ってくる!」


「じゃあ帰ったら結果教えろよー!」


「りょうかーい!!」


 笑顔の幼馴染に向かって手を振って、また走る。そうだ。魔力を調べてもらえる、教会へと。



 俺は、魔力の保有量を調べられる年齢である15歳を迎えた。



 魔法が使えるようになる年齢は人によってまちまちだが、20歳までには必ず萌芽する。

 しかし保有量が最大まで成熟する年齢は15とされており、それに達した者たちは教会にて調べる決まりが昔から伝わっているのだ。その結果により未来は大きく左右されるために、仕事や結婚相手など──人生の大部分が魔力によって決まると言っても過言ではない。実際に、王都の騎士団長なんかは強大な魔力を持っているという。魔力があれば富や名声、権力といった、多くの人が喉から手が出るほど欲しがるものを手に入れられるだろう。それを使いこなせるかどうかは別として。


 俺は魔法はまだ使えないが、これから使えるようになるはずだ。魔力量は少ないかもしれないが、それはまあ仕方の無いことだと受け止めよう。微量であっても、初級の魔法なら使えるのだから。


 ルーカスは少し前に15を迎え、その保有量は膨大だったらしく──様々な機関や騎士団などから引く手数多なのだとか。その誘いを断り続けているようだが、理由はよくわからない。質問しても言葉を濁すばかりで教えてくれなかったからだ。

 親友の俺くらいには教えてくれてもいいのに。


 そんな考え事とともに足を前に進めていれば──眼前には荘厳な教会がそびえ立っていた。



「……よし」



 ごくりと、唾を飲む。街の中の見慣れた教会が、いつもとは違って知らない場所に見えた。覚悟を決めて、足を踏み入れる。


「ああ──魔力鑑定ですね。こちらへどうぞ」


「っ、はい」


 俺の顔を見たシスターさんが、一室へと案内をしてくれた。ひとりの少年とすれ違う。同じ街の友人だった。俺に気づいた彼は、笑顔をこちらへ向けた。


「あ、リク! そういや、お前も今日だったな」


「うん。緊張する」


「はは、頑張れ!」


 彼は喜色満面に笑みを浮かべ、軽やかに外へ出ていく。魔力鑑定をしたのだろう。きっと、良い結果だったのだ。……いいな。

 羨望を覚えながら。ぎこちない足取りで、後をついていくと──水晶玉を前にした年老いた神父さんが、整然とした室内で俺を待っていた。

 周りには、数人の大人たち。きっと教会の人ではない。シスターさんや神父さんのように黒く洗練された修道服を身につけていないから。記録係と思わしき女性がペンを片手に、こちらへ視線を向けた。緊張で体が強ばる。

 柔らかい笑みを浮かべて、神父さんが口を開いた。



「次はリク──君だね。それじゃあ、始めようか」



 何度かしか顔を合わせたことはないが、俺の名前を覚えていてくれたらしい。はい、と固い声で返事をして、前へ進む。


 期待と不安で高揚が抑えきれない。じんわり手に滲む汗。高鳴る鼓動は、手に伝わるほど。

 もし、万が一。ありえないとはわかっているけれど、すごい魔力の持ち主だったらどうしよう。世界に名が轟くような伝説の魔法使いになっちゃったり。高度な魔法で、困ってる人をみんな助けちゃったり。

 夢物語だが、そんなストーリーを思い描いてしまう。


 ああ、わくわくが止まらない!


 ふと。神父さんが水晶玉を見つめ、大きく目を見開く。その顔は驚愕に染まっている。どうしたのだろう。

 ──まさか、まさかだけど。俺の理想が実現したのだろうか。心臓が大きく跳ねる。



 そうして。半開きになった口を動かして、彼は言葉を紡いだ。


 

「……君、魔力無いね……」



「えっ」

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