第24話
公爵家に戻ると、ウィリアムが扉の前でうろうろしていた。
「リリカ!!」
「ウィル兄様っ」
「無事で良かった」
リリカはウィリアムに抱き付かれた。余程心配を掛けていたのだろう。なかなか離してくれない。
「お、お兄……様、くるしい……」
「公爵様、お嬢様が潰れてしまいますので、そろそろ離してさしあげてください」
「あっ……すまない。大丈夫か?」
ウィリアムはぱっと手を離す。
「はい、なんとか」
「今日はゆっくり休んでくれ。僕はこれから王宮に行かないといけないんだ。夜には帰る予定だから、晩御飯は一緒に食べよう」
「はい、お兄様。行ってらっしゃいませ」
そう言って手を振ると、満足した笑みを浮かべて出発した。
数日後、、、
なぜか寂しいわ……。
そう感じ始めていた。
王宮にそんなに愛着があったのかしら。いえ、それは違う気がするわ。……だとしたら、もしかしてレイリック様にしばらくお会い出来ていないから?っいえ、ダメよ。会いたいなんて間違っても思っては。契約があるもの。
契約書には無闇矢鱈に近付かないこと、という項目があった。それはリリカが作った契約書だ。
自分で作ったのにそれを自ら破るなんて真似出来ないわ。……レイリック様とは城内にいても忙しくてお会い出来ないときは多かったけれど、いつも守ってくれた。いつの間にか側にいるのが当たり前になっていたのかもしれないわね……。よしっ、レイリック様に差し入れるお菓子でも作りましょう。これは日頃のお礼よ。今まで何のお礼も出来ていないもの。それぐらいならセーフのはず。
早速、リリカは厨房に向かう。
「料理長、ちょっといいかしら?」
「お嬢様、いかがされました?」
「お菓子を作りたいのだけれど」
「お嬢様が、ですか!?」
「ええ」
やっぱり可笑しいのかしら。公爵令嬢が料理なんて。
「もちろん、構いませんよ。どうぞ、お使いください」
ほっ、良かった〜。
「それで何を作られるのですか?」
「そうね。クッキーを作ろうと思っているわ」
「分かりました。では材料をご用意しますね」
「お願いね」
数時間後、、、
「どうしてこんなことに……」
全て焦げてしまったのだ。
私、そんなにお菓子作り苦手だったかしら。
「まあ、初めてですし、上出来ですよ」
「慰めなくていいわよ……」
そもそも道具が悪いのよっ!! 前世とと違って、電子レンジなんてないし、火加減も難しいもの!! 本当にどうしましょう、こんなの王子様に渡せないわ。
パクっ
とりあえず味見してみる。
「食べれなくはないけど……」
「大丈夫ですよ、お嬢様。殿下でしたら食べてくださいます」
レイナにも励まされる。
「お腹壊しでもしたらどうするのよ!!」
最悪の場合、死刑にでもなったら……。
「このぐらいでしたら、大丈夫です」
「う、うーん。お兄様にまず差し入れて味見してもらおうかしら」
「お兄様、いかがですか?」
「リリカが作ったのか!? さすがは僕の妹だ。美味しいよ」
「お腹を壊したりは……」
「大丈夫だよ。そんなことにはならないよ」
「……そうですか。ではこちらをレイリック様に渡していただけますか?」
「もしかして、殿下のために作ったのか?」
「は、はい。その、今までのお礼です……」
ピシリとウィリアムの動きが止まる。
「……分かった。お渡ししておくよ」
「ありがとうございます、お兄様」
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