第7話

「い、行ってはダメだ!!」

「行きます」

このやり取りを数十分繰り返している。


発端は王太子殿下の婚約者となることが決まったことだ。王太子妃となる者は王太子妃教育を受けるために王宮で生活しなければいけない。とそれを知ったのが、王太子殿下が王宮に婚約許可証を提出し、婚約が決まったと連絡を受けてすぐのことだった。ウィリアムもすっかり忘れていたらしく、妹と離れ離れになるなんてと嘆いているのだ。

大袈裟な。別に一生会えないわけでもないし、そこまで遠くないし、いつでも会おうと思ったら会いに行ける距離でしょうに。というか絶対わざと、よね。タイミングを計ったかのように知らされるだなんて。でも、それだけ婚約者として受け入れようとしてくれているということだし、まあいっか。


とにかく、なんとしてでも行く許可を得ないと。転生してからまだあまり時間は経っていないけれど、お兄様と会えなくなるのは寂しくもある。この身体の元の持ち主がそうだったように。リリカはお兄様のシスコン度合を鬱陶しく思っていながらも、たった1人の家族だということもあり、本当に大切に思っていたから。そんな感情がどこからか伝わってくる。だから、この前は無理矢理な形で婚約の許可を得たけれど、家から出ることをきちんと認めてもらいたい。


「お兄様……お兄様がご存じのように私は今まで屋敷の中にばかりいて、外の世界を知りません。私はあまりにも無知です。そして、このまま屋敷に引き篭もっていては公爵家の評判にも関わるでしょう。お兄様が守って来た公爵家を私も異なる立場にはなりますが守りたいのです。そのためにも王宮で数多くのことを学びたい。そう思っております」

これは私の本心だ。リリカは幼い頃からずっと兄の役に立ちたいと密かに願っていた。

「っ!! ……全くそこまで言われたらダメだなんて言えないじゃないか。あんなに小さかった妹が知らないうちにここまで成長していたなんてね。行っておいで。そして、何かあったらいつでも帰って来ていいからね」

「!! はいっ。行って参ります、お兄様」


リリカは王宮に向けて出発した。

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