第10話

今はレイリックの執務室にいる。


持って帰った茶葉からレイナにお茶を作ってもらった。

「どうぞ」

「へえ、これがリュカか」

「美味しいわ」

ほっとする懐かしい味……。緑茶で正解だったようね。

「うん。美味しいね」

「王太子殿下、連れて行ってくださりありがとうございました」

「婚約者だからね。今後は許可を取らずに自由に行ってもいいよ」

グレイスにもまた欲しくなったらいつでも来ていいと言ってもらえた。

「ありがとうございます」

「いいよ。それより、そろそろ王太子殿下って呼ぶのやめない? 婚約者なのにいつまでもそう呼んでるのは可笑しいでしょ」

「確かに……」

名前で呼ばないのはリリカとレイリックの本当の関係を知らない人からすれば不自然だ。

「レイリックでも、なんならレイでもいいよ。親しい人にはそう呼ばれているからね」

「いえっ、さすがにそれは。……その、レイリック様?」

「うん。まあそれでいいかな(今のところは)」


リリカとレイナは退室した。

「すっかり気に入られたようで何よりです」

「まあ、そうだね。それとロベルト、今は2人きりだからいいんじゃない?」

「ああ、そうだな」

ロベルトの口調が変わった。ロベルトはレイリックとは幼馴染ではあるが、基本的には侍従長としてレイリックに接するようにしている。だが2人きりのときには、たまにこうして息抜きをさせてもらっているのだ。

「しかし、なかなか変わったご令嬢だな」

「ああ、そうだね。茶葉に夢中になって僕の存在を忘れるぐらいだからね」

リリカは何も誤魔化せてはいなかった。

「マジかよ!?」

「ああ。本当に面白いよ、彼女は」

こんな令嬢初めてだ。正直、女性というものは契約があっても上手いことくぐり抜けて、近付こうとするものかと思っていた。しかし、そのような気配は微塵もない。それどころか、他のものに夢中になって僕のことすら忘れられる始末だ。なぜかリリカ嬢と僕の距離よりグレイスとの距離の方が近かったように思える。

「ふふっ」

「レイ?」

「あんなに興味なさそうにされると、逆に僕の色で染めたくなるよね」

「うわ……程々にしとけよ」

「ああ。大丈夫だよ」

「……」

ロベルトは密かにリリカの無事を祈るのだった。

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