第9話
リリカは1週間のんびりとした日々を過ごした。そして、ついに今日から王太子妃教育が始まる。政治、経済、魔法学など幅広い分野を学ぶ。いずれも公爵家で教わっていた内容より、遥かに高い水準なので学び終えるのはかなり大変だと聞いている。茶葉のためという目的がなければ、わざわざ王太子妃になどなろうとはしなかっただろう。
「本日より教育係を務めさせていただきます。ソフィア・フローランスと申します」
茶髪の優雅な年配の女性が礼をする。
「ごきげんよう、フローランス伯爵夫人。よろしくお願いしますわ」
フローランス伯爵夫人は現王妃様の王太子妃教育も行っていた方だ。私は前世の記憶が混ざっているからか、たまに素が出てしまう。気を付けなくては。
そう思い、緊張しながらも授業を受けていたリリカだったが、あっという間に王太子妃教育が始まって1週間が経った。王太子妃教育はリリカが思っていたほど難しくはなかった。ファンタジー好きなので魔法学に関しては楽しんで学んでいるし、他の科目に関しては確かに難易度は上がったが、基本は公爵家でしっかりと学んでいたので、そこまで難しいと感じなかった。
過去の私、ナイス!!
ただし、苦手な科目も当然ある。それは語学だ。語学は前世で一番苦手な科目だった。王太子妃になるには母国語を含め最低でも5ヶ国語話せなければならないと聞き、発狂しそうになった。公爵家で学んではいたが、それも2カ国語だけだった。それだけでも大変だったのに、さらに2カ国語を覚えなければいけないのだ。美味しい茶葉のためだけに王太子妃になろうなんて無謀だったか、と早くも後悔し始めていた。
そのようなことを考えていたリリカだったが
「やあ」
「ひゃあっ!!」
真後ろからいきなり声を掛けられ、飛び上がって驚いた。
「レレ、レイリック様」
驚いて、さらに動揺しているリリカを見て、レイリックは笑っている。
「久しぶり。随分疲れていたみたいだけど、これは語学書?」
「はい。5ヶ国語覚えないといけないので」
「……じゃあ出かけようか」
「へっ? いきなりですか!? もう夜ですよ」
「この時間ならあそこが良さそうだからね」
「?」
リリカはレイリックにいきなり手を繋がれ、次の瞬間、身体がふわりと浮いた。
「きゃあっ!! と、飛んでる!? えええ〜!!」
そうして連れてこられたのは王宮の隅にひっそりと立っている塔だった。その塔の屋上に降り立った。
「もうっ!! こういうことは事前に仰ってください!!」
ほんっとう一に心臓に悪いわ。
リリカは抗議をする。
「ごめんごめん。でもほら、見てみなよ」
「わあっ!!」
空には満天の星空が、下には住宅や店の明かりがあちらこちらに点々と輝いているというとても綺麗な夜景が広がっていた。
もしかして、気分転換に連れて来てくださったのかしら。
「ふふっ、ありがとうございます。レイリック様」
我ながら単純だけど、これでもう少しぐらいは頑張れそうね。
「本当はこれを渡しに行ったんだよ」
そう言って、箱を渡された。開けてみると、
「ペンダントですか?」
レイリックの瞳の色と同じ水色のネックレスだ。
「ああ。これを必ず毎日、身に着けてほしいんだ」
「毎日ですか?」
「そうだよ。お守りだからね」
「お守り……。ありがとうございます。でも私、こんな高そうなものいただいても何も返せませんよ?」
「いいよ、気にしなくても。言ったでしょ、お守りだって。婚約者の君に何かあったら困るからね」
ああ、なるほど。私の身に何かあった場合、公爵家から責任を追及されることになる。そのときに最大限、婚約者の身を守る努力をしていたと示すことが大切ですものね。
「分かりました。毎日、身に着けさせていただきますわ」
今日は良い夢を見られそうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます