第14話
「リリカ嬢、少しいいかな」
その夜、レイリックが部屋を訪ねて来た。
「レイリック様、いかがなさいました?」
「魔物が部屋に侵入したと聞いてね。彼らの処分について意見はあるかい?」
「しょ、処分!?」
「ああ、当然のことだよ。何を驚いているんだい」
テイムした魔物一匹従わせられない騎士なんて必要ないからね。
そうレイリックは考えていた。
あの白ウサギは私に会いに来ただけなのに、そんなの……。
「あのぅ、出来れば処分など無しに……」
「どうして?」
「危険はありませんでしたから。これで処分なんてされたら夢見が悪いですし。お願いします」
そう言って頭を下げた。
リリカ嬢は優しすぎる気がするけど、もし処分なんてして避けられるようになったら嫌だし、
「うん。処分は無しにしておくよ」
処分はしない代わりに厳しい訓練を受けさせないとね。
「あと、魔物の言葉が分かるって聞いたんだけど」
「そうでした。あの白ウサギの子、私に話しがあって来たみたいだったんです。聞きそびれてしまいましたけど」
「……まず1つ。聞いたとは思うけど白ウサギとは普通は会話出来ない。となると君は翻訳魔法を持っている可能性が高い。そして、それを無意識に使えるということは相当レベルも高いのだろう」
「小さい頃から、私の周りには魔物がよく集まって来て、会話していたんです。それで会話が出来るものだと思っていたのですが」
「……魔物は警戒心が高いから無闇矢鱈に近付いたりはしない」
「そうなのですね。ところで翻訳魔法って何ですか?」
「翻訳魔法はその名の通り、何でも翻訳出来る魔法だよ。魔物の言葉もそうだし、君が苦手な外国語の翻訳も出来るよ」
「そうなんですか!? 嬉しいですっ!!」
もう苦労して勉強しなくてもいいと分かり、リリカはパアッと瞳を輝かせる。
「あれ、私が苦手だってこと話しましたか?」
「まあ、あれだけ苦戦していたらね。見れば分かるよ」
「あっ」
以前部屋に訪ねて来られたときにバレていたようだ。
「他には古代書の解読だって出来る。だから貴重なんだよ」
「なるほど」
私は魔法は得意ではない。練習しても上手くはならなかった。別にそれを嘆いてはいない。けれど、他の魔法はいい。翻訳魔法だけは是非とも得意であってほしい。真剣にそう願った。
「2つ目、翻訳魔法が使えることは秘密にしていた方がいい」
「どういうことですか?」
「言ったでしょ、翻訳魔法は貴重だって。その力を狙って襲われたり、悪用しようとする者たちが近付いてくる可能性がある。大昔、軍事力は今より遥かに高かったという。その戦闘技術が古代書には記載されているんだ」
ハッ
「私の翻訳魔法で解読を?」
「ああ、そうだ。元々公爵家の血筋は魔法の扱いに秀でた者が多い。リリカ嬢が翻訳魔法の扱いに長けているのではと考える者たちもいるだろう」
「分かりました。絶対に秘密にします」
そして、
「レイナ、だったか。君もくれぐれも誰にも言わないように」
そう後ろに控えていたレイナに言う。
「はい。もちろんでございます」
「あと公爵にはすでに伝えておいたんだ。今は魔物の件を調べてもらっている」
お兄様は私が倒れたと聞き、飛んで来た。比喩ではなく、本当に魔法で。そして、王宮の中庭に降り立った。
普通なら大騒ぎになるのだろうが、相手が公爵だと皆すぐに分かり、レイリックがリリカを運んでいるところを見た人々からリリカが倒れたと噂になっていたので、シスコンの公爵のことだからと特に騒ぎにはならなかった。それはそれで問題だと思うが……。
お兄様は私の手を握り、『リリカを連れて帰る』『リリカの側に永遠にいる』とかずっと言っていた。心配を掛けているのは分かっていた。しかし、ここにいたかった私は、お仕事をしているお兄様が好きですよ、と一言告げた。すると、真っ直ぐ仕事に戻って行った。
「それで何か分かったのですか?」
「……いや、まだ何も分かっていないよ」
おそらくは何者かに解き放たれたのだろう。だが、あまり不安にはさせたくないし、出来るだけ伏せておきたい。
「そうですか」
「だけど、王宮内にいた魔物は全て倒したから安心していいよ。さて、この話はここまでにしておこうか。これ、新しいネックレスだよ」
色は前回と同じ水色だが、サイズは一回り大きい。
「ありがとうございます。ですが、大きいですよね?」
「そうだよ。前回より難しい魔法を入れようとしたら、この前の宝石には入り切らなかったからね」
「……一体、どんな魔法を?」
リリカは疑問に思っていたことをそのままぶつける。
「帝級魔法だよ」
「えっ……え!? あの帝級魔法ですか!? 伝説の」
リリカは驚いて目を丸くする。
「そうだよ。前回は第ニ級魔法にしたんだけど破れちゃったからね」
と普通に言われる。
第二級でも充分凄いのに。っていうか第一級魔法はどこにいったのよ!?
「普通なら第二級魔法で充分なんだけど、そうはいかなかったし、いっそのこと確実に守れるように帝級魔法を使おうと思ってね」
リリカの心の声に答えるようにそう返される。
帝級魔法とは第一級魔法より上に位置する魔法で、魔法書には記載があるが、実際に使える人が全くいないことで伝説の魔法と言われている。
そんな魔法が使えるなんて……。
驚きのあまり目を見開いたまま制止していると
「ふふっ、君の反応はやっぱり面白いね」
!? 笑われた!? そんな面白がられるような反応してないと思うけど……。それに誰だって驚くわよ、こんなのっ!!
「まさか帝級魔法なんて凄い魔法が出てくるとは思わなかったんですから!!」
「ありがとう。たぶん、誰にも破られないと思うよ」
「はい、そう思います」
とリリカは大きく頷く。
これで破られたら、そのときは諦めるしかない。
「それと二人とも、このことも秘密で、ね」
「?」
どうして秘密なのか、疑問に思っていることが分かったのだろう。
「そんな伝説の魔法を使えるなんて知られたら、無駄に警戒されることになるからね」
と返された。
「確かに……。分かりました」
「承知いたしました」
レイリックは返事を聞いて、頷くと部屋に帰って行った。
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