レナードside
これは終わりそうもないな。
予想通り、とんでもない量の仕事が渡された。果たして、いつになったら終わらせられるのだろうか。
兄さんが婚約したと聞いたのは前回の長期休暇の前だった。本来ならすぐにでも、せめて前回の長期休暇中には帰って来たかったところだったのだが、学業もあり、さらには公務まで詰め込んでいたため忙殺され、帰ることは叶わなかった。だから今回は早めに全てを終わらせたのだ。
兄さんが女性に騙されるなんてことあり得ないし、相手が公爵令嬢と聞いていたため単なる政略婚約だと思いつつも心配で、飛んで帰って来たのに、まさかあんな光景を見ることになるとは夢にも思わなかった。
戻って来てすぐに兄さんのところに会いに行った。そこで婚約の話しを振ってみたのだ。すると兄さんは笑顔で語り出したのだ。あの兄さんが笑顔で!?と驚いたが驚きはそれだけに留まらなかった。リリカ嬢には本物の笑顔を向けていたのだから。いつもは張り付けたような王太子としての笑みしか見せなかったのに。僕でもあんな笑顔見たことなかったから少し嫉妬してしまいそうになったけど。
それにしてもリリカ嬢には僕の提案を実にあっさりと断られてしまった。正直なところ、断られたときほっとした。罪悪感を覚えていたからだ。
リリカ嬢にとって僕の提案は全く興味が沸かなかったらしい。かといって兄さんが王太子だから婚約者でいたいと思っている様子でもなかった。兄さん自身を見てくれている。僕も王子という立場ではなく自分自身を見てくれる人と婚約したいものだ。
昔、僕には好きな人がいた。彼女とは留学先で出会ったのだが、僕に一切の興味を持っていない珍しい女性だった。どうにかして振り向かせようと僕なりに努力はしたつもりだった。だが無情にも彼女は他の令息と恋に落ちてしまった。そのことに僕はすぐに気が付いた。ずっと彼女のことだけを見ていたから。結局、彼女はその令息と婚約した。彼女から婚約したと聞いたとき、ぎゅっと胸が締め付けられるように苦しかった。彼女が喜んでいるというのに僕は素直に喜ぶことが出来なかった。なんとかいつも通りの笑顔を心掛けておめでとうと伝えはしたが。そのこともあって、もしリリカ嬢が兄さんに全く興味がないようなら傷が深くならないうちに引き離そうと思った。だからといって、本気で彼女と婚約する気はなかった。そんなことをすれば確実に兄さんには恨まれるだろうから。兄さんの恨みは買いたくないしな。もし、僕の提案で気持ちが揺らぐようなら適当な国に行ってもらう予定だった。そんなに茶葉が好きなら東方諸国にでも行ってもらえば兄さんに対する言い訳も出来るし。
令嬢を試すような真似ダメだとは分かってるんだが。こんな僕だから、好きな人にも振り向いてもらえなくても納得だよ。
もう彼女に会うことはないだろう。彼女と出会った国を出て、今は他国の学園に留学しているから。以前は彼女のことを知りたいと思い、よく話し掛けていたのだが、彼女が婚約したと聞いてから彼女を見るだけでどうしても胸が苦しくなって耐えられなくなった。それで家族にはさらなる見識を深めるためと嘘を付き、他国に留学した。本当の理由なんて誰にも言えなかった。僕は苦しさを誤魔化すかのように休みも禄に取らず、学業と公務に熱中するようになっていった。その間だけは彼女のことも何もかも全て忘れられるから。
今、彼女は幸せに暮らしていると聞き及んでいる。何よりだ。彼女の永遠の幸せを願っている。
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