第19話

「暇ね」

皇子殿下が来られている間、王太子妃教育は中断となった。トラブルを避けるため、騎士や上級官吏など最低限の人員を除き、極力人を王宮には入れないことになっているからだ。以前、言いがかりを付けられ、それが引き金となって戦争にまで発展しかけたことがあったらしい。それ以来、要人が来る際はこうして人数を減らしているとか。


先日、魔物が王宮内から完璧にいなくなったことが分かり、温室と庭園に限り行くことが許可されたと連絡が入った。

帝国の皇子殿下と関わると厄介なことになりそうだし、会わないためにも部屋にいた方がいいんだろうけど。まあ、こんな広い王宮だし会うことはないでしょうね。

この前はゆっくりと見ることが出来なかった庭園を少しの時間だけでも見たいという気持ちが勝ってしまい、安易に部屋を出たことを後で後悔することとなった。庭園に着いて、しゃがんで花を眺めていたところ、後ろから声を掛けられたのだ。

「貴方はリリカ嬢?」

「っ!! これはジュリアン殿下、ごきげんよう」

慌てて立ち上がり挨拶する。

完っ全に油断してた!! どうしよう!?

「突然、声を掛けてすまない」

「えっ!?」

なぜか、謝られて、困惑していると

「……俺はこの容姿だから」

あっ、そうか。

この世界では黒髪黒目は悪魔の象徴だとして忌み嫌われている。

私は前世の元日本人としての記憶があるから、懐かしいと思うし、前世の記憶がなかったときも別に嫌ってなんかいなかった。

「私は気にしませんわ。綺麗な色ですもの」

「綺麗……か。そんなこと言うのは貴方ぐらいだ。貴方だけだったな。昔も今も俺を避けないのは」

「昔? 以前お会いしましたか?」

「ああ。まあ、大分昔のことだから覚えていなくても当然だが」

「申し訳ありません」

「構わない。あのときも貴方は同じことを言っていたんだ。婚約者がいなければ俺と婚約してほしいぐらいだ」

「ふふっ。ご冗談を」

「そろそろリリカ嬢を返してもらうよ」

突然声が聞こえ、誰かに肩を引き寄せられた。気が付いたらレイリックが横に立っていた。

「レイリック様!?」

「僕の可愛い婚約者と随分仲が良いみたいだね、ジュリアン皇子」

か、可愛いって……。普段絶対に仰らないことを。はっ!!なるほど、これは仲良し演技再開ということね。なら、私も演じないと。

そう思い、にこっとレイリックに笑顔を見せる。

「……」

レイリックは驚いた顔をして、固まっている。前を見るとジュリアンもその場で硬直している。

えっ……何か可笑しなことでもしてしまったのかしら!?

しばらくして、2人とも我に返ったようで話しの続きをする。

「……偶然お会いしたので少しご挨拶をと思いまして」

「偶然……ねぇ」

「皆、仲が良いのが一番ですわ」

そう返すとレイリックには微妙な反応をされた。

「……さぁ、部屋に戻ろうか。リリカ嬢」

リリカはレイリックに背中を押され、部屋に戻るように促される。

「えっと……ではごきげんよう、ジュリアン殿下」


リリカとレイリックはその場を後にした。

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