第21話

リリカは今庭園にいる。花を今日こそはゆっくり見ようとしゃがんで眺める。

「色とりどりの花……本当に綺麗ね。こっちの花も素敵ねっ」

ついつい奥の方まで移動してしまう。

そのとき、背後からの気配を感じた。

デジャブ……まさか、また殿下が?

振り返るとそこには

「ひえっ」

クマのような魔物が立っていたのだ。

「な、ななな何で魔物が!? いなくなったんじゃなかったの!?」

このネックレスがあるから大丈夫だと思うけど、と思いつつ、レイリックから貰ったネックレスを握りしめる。そのとき、

「リリカ嬢!! 大丈夫か!?」

「ジュリアン殿下っ」

トンッ

ジュリアンは地面を蹴ると上から魔物をつき刺した。どうやら倒したようだ。

「ありがとうございます、殿下」

「……いや、部屋まで送っていく」


「お嬢様……とジュリアン殿下!!」

ジュリアンの姿に気が付いたレイナが慌てて頭を下げる。

「リリカ嬢、少し話しがあるんだが、後日にした方が良いだろうか?」

「いえ、これからでも大丈夫ですわ」

ネックレスがあるので安心出来、またジュリアンがすぐに駆けつけ、倒してくれたお陰で今回は怖い思いもほとんどしないで済んだ。机を挟んで向かい合ってソファに座る。

「それにしてもお強いのですね」

「レイリック王子には及ばないけどな」

「そうなのですか?」

「ああ、レイリック王子は特別だ。5歳で魔法を放ったとか、帝国でも有名な話しだからな」

!? 普通、魔法が使えるようになるのは早くても10歳頃なのに。っていうか、有名な話しなのね。知らなかったわ。


そのような話しをしていると

「失礼いたします。リュカでございます」

レイナが部屋に入って来て、用意したお茶を差し出す。

「ありがとう。しかし、珍しいお茶だな」

「はい。主に東方諸国で栽培されている茶葉ですの」

「ん!? これはっ!!」

一口飲み、驚きの声を上げる。余程美味しかったのだろうと思ったリリカだったが、次に聞こえてきた

「これは緑茶ではないか!!」

という言葉に目を見張る。

「はっ!! いや、失礼した。今の言葉は気にしないでくれ」

冷静さを取り戻したジュリアンが取り繕うとしたが、

「殿下は緑茶をご存知ですの!? もしかして、元日本人とかだったりしますか!?」

と前のめりになって聞く。

「まさか、リリカ嬢もか!?」

「ということは……」

「ああ、そうだっ!!」

「……」

リリカは後ろからの視線を感じた。

あ……レイナがいることを忘れていたわ。

後で説明するわね、とレイナに言う。

「もしかして俺のこの容姿でも避けなかったのは」

「懐かしい色だと思いましたわ。ですが思い出したのは最近なんです」

「なら昔俺があったときは」

「ええ、思い出す前ですわ。その頃から特に色なんて気にしていませんでしたわ」

「そうか」

ジュリアンは嬉しそうに微笑む。

「そういえば私に何か話しがあって来られたのでは?」

「あっ……そのことなんだが」

ジュリアンはしきりに後ろにいるレイナを気にしている素振りを見せる。

もしかして、2人きりの方が話しやすいのかしら。

しかし、それは出来ない。婚約者のいる女性が婚約者以外の男性と2人きりになるなど醜聞になってしまう。

「彼女は信頼出来る口の固い侍女ですわ。ね、レイナ」

「はい。絶対に口外いたしません」

「すまない。……まずは謝罪させてくれ。魔物のこと、本当にすまなかった」

そう言って頭を下げる。

「ええっ!? な、何を!?」

「あの魔物は操られていたんだ……俺たちエスフィート帝国の者の手によってな」

一体、どういうことなんですの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る