第44話

「……ロベルト、読み終わったよ」

「おっ、早かったな。どうだった?」

「……」

「レイ?」

「……ああ、いや、積極的に来られるのが苦手な人もいるんだと思ってね」

「そうだな」


レイリックが読んだ恋愛小説では1人の男がヒロインを好きになり積極的にアピールするが、それが嫌で逃げ出すというシーンがある。今までレイリックは女性から言い寄られることはあっても逃げられた経験など全くない。


「あんま男性慣れしてないんだろ、リリカ嬢は」

「公爵令嬢だから男性にもたくさん話し掛けられたりしてると思ったんだけどな」

「そりゃあ、あの兄がいれば誰も近寄れないんじゃねえの」

「あっ……確かに」

「それにそもそもパーティーにも滅多に参加してないだろ」

「そうだったね」

うっかりしてたな。ウィリアムが過保護すぎてパーティーにもあんまり参加してないんだった。

「逃げられても困るし、リリカ嬢とはちゃんと話しをして来るよ。あっ、そうだ。1つ頼みがあるんだけど」

「なんだ?」

「こういう本って他にもあったりするの?」

「ああ、あるな。色々売ってるぞ」

「それを用意して」

「まあいいが、どれぐらいだ?」

「全部。じゃあ頼んだよ」

そう言って、レイリックは部屋を出ようとする。

「いやっ、待て待て待てっ!! 全部って一体何冊あると思ってんだよっ!!」

「それもそうか。うーん、ならロベルトが適当に選んで持って来てよ」

余計な仕事が増えた……。ただでさえ忙しいってのに。でもまあ、これもレイのため、仕方無いな。

「分かった。用意しておく」

レイリックは返事を聞くとすぐに執務室から去って行った。


〜リリカの部屋〜

「リリカ嬢、少しいいかな?」

リリカは扉越しにレイリックの声が聞こえ、扉を開けた。

「はい、どうぞ」

「っ!? そっ、その格好は」

レイリックはリリカの姿を見て珍しく動揺していた。それもそのはずだ。もうすぐ寝るところだったので薄着を着ていたのだ。決して男性に見せられるような格好ではなかった。

「えっ、あっ!!」

リリカは今の自分の格好に気が付き、赤くなった。

「す、少しお待ちくださいっ」

そう言って慌てて扉を閉め、近くに置いていた羽織りを着た。

「お待たせしました……」

「あっ、ああ」

「では中へどうぞ」

「うん」

2人は向かい合ってソファに腰を掛けた。

きっ、気まずい……。何か話し掛けるべきかしら。

そのとき、レイリックが口を開いた。

「その、ちゃんと話そうと思って。色々とごめんね。勉強もしたし、もうあんなことにならないように気を付けるよ」

勉強って一体何を?とリリカの頭には疑問が浮かんだ。

でも、そんなことより……

「別にレイリック様のせいではありませんわ。その、ああいうことされたのは初めてで……」

なんというか距離を取られているような。配慮してくださっているのでしょうけれど、でも……

「今まで通り関わってくださいませんか?」

「えっ、だけど」

「私も倒れることがないように慣れたいですし」

リリカはそうは言ったが、実際のところ今更距離を置かれたくはなかったのだ。

だって寂しいじゃない。

「今まで通りってことはまたキスしてもいいってことだよね」

「っ〜〜。がっ、頑張ります!! でっ、ですがそのっ、お手柔らかにお願いしますっ」

「ふふっ、分かったよ」

「ありがとうございます」

「でも本当に誰にもされたことなかったの?」

キ、キスのこと、よね。

「はっ、はい。されたことは一度もありませんわ」

「ウィリアムにも?」

「お兄様はそんなことしませんわ。ハグはよくされますけど」

「へぇ。妬いちゃうな」

「?」

「じゃあ僕は部屋に戻るから。また来るよ」

「はい。お待ちしております」


レイリックはリリカの部屋を出た。

どうにか理性を保てたな。早く去らないと暴走しそうだったし、危なかった……。あんな格好……本当に可愛すぎるっ。でも危なっかしいな。僕じゃなかったら今頃大変なことになってるよ。それにしてもキスは僕が初めてか。嬉しいな。

先程までが嘘のように気持ちが軽くなっていた。

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