第45話
とある日の夕方、リリカは庭園にいた。目の前には一匹の猫がいる。
「猫ちゃんっ」
慎重に近付いて姿勢を低くして、その猫の背中を撫でる。その猫は気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
「気持ち良いわ〜」
どこからか声が聞こえた。
「私よ」
猫が答えた。
「えっ!? そうだったわ。私動物と話せるんだったわね」
「貴方、動物を引き付ける力があるわね」
「へっ? そんなこと……」
「心当たり、少しはあるんじゃない? 動物が突然目の前に現れたり」
「あっ……確かにあるわ。でも、まさか、魔物を引き寄せる力もある、なんてことは……」
「ええ、あるわね。動物ならなんでも引き寄せてしまうでしょうね」
「そんな……」
道理で昔から魔物によく出会すわけね。
「まあ今は魔物なんて気にしなくても大丈夫じゃないかしら」
「どうして?」
「貴方がしているネックレス。それが魔物避けになっているわね。魔物避けって言っても敵意のある魔物が近付けないだけで、従魔とか敵意のない魔物は普通に近付けるけれどね。ほら、生き物って本能で自分より強い力を恐れるものでしょ。敵意がある生き物だけ、それを感じられるように上手く調整されているわね。まあ、人間は感じ取れないでしょうけど」
「へぇ〜、そうなのね」
そんな機能があったなんて、さすがレイリック様ね。
ピクッ
猫の耳がぴくりと動いた。
「猫ちゃん?」
「誰か来たわね。私は行くから、じゃあね」
ヒュンッ
「あっ、猫ちゃん」
その猫は素速く去って行った。
「話し声が聞こえた気がしたんだけど」
金髪の男性が現れた。
「き、気のせいですわっ」
しまった。猫ちゃんとの会話聞かれたかしら。
あの猫の言葉はリリカ以外には聞こえていないので、ひたすら独り言を話す変な令嬢と思われてしまう。
「そうか」
納得してくれて良かった〜。
「それで君はもしや」
「えっと……」
金髪ってもしかして、例のレイリック様の弟さんでは!?
「初めまして、リリカ・エバルディと申します」
リリカは慌てて挨拶する。
「やっぱり君が兄さんの婚約者か」
「はい」
「僕はレナード・フォン・アルマーニ、第二王子だ。それにしても、まさか兄さんがこんなに早く婚約者を決めるなんて思わなかったよ」
王族にしては遅い方では?
「兄さんはまだ誰とも婚約する気はないって言っていたからね」
リリカの心の声が漏れ出ていたのか疑問に答えてくれた。
「ん? えっ!? そのネックレスはなに!? 凄い魔力を感じるんだけどっ」
そのとき、レナードはレイリックからプレゼントされたネックレスを見て、驚きの声を上げる。
「分かるのですか?」
さっきの猫ちゃんは人間には感じ取れないって言っていたけど。
「まあね。僕は魔法を扱うのはあまり得意ではないけど、魔力を敏感に感じ取ることが出来るんだよ」
ああ、なるほど。それで気が付いたのね。
「で、それ一体なんなの? リリカ嬢からは魔力あんまり感じないしプレゼントとか?」
「はい。レイリック様に頂きました」
「は? 信じられない……。あの兄さんが……女性にプレゼントを? しかもこんな凄い物……」
レナードは驚きのあまり、固まってしまっている。
そんなに意外なのかしら。そういえば、すっかり忘れてたけど、レイリック様は女性嫌いなのよね。だから誰にもプレゼントしてこなかったのね。
「こんなところで2人とも何しているんだい?」
レイリックがどこからともなく現れた。
「少しご挨拶していただけですわ」
「兄さん……。本当に兄さんがあのネックレスを?」
「ああ、そうだよ」
「……」
「その髪飾り、また着けてくれたんだね」
「はい、お気に入りですから」
「気に入ってもらえて良かったよ。そのドレスは見たことないけど新しいもの?」
「はい。レイナに選んでもらったのですわ」
「へぇ、センスが良いな。君によく似合ってる」
「ありがとうございます」
あの兄さんが女性を褒めてる!? っていうか女性に笑顔で話し掛ける姿なんて見たことないんだけど!? これは夢か何かか? そうじゃなきゃ兄さんが女性相手にあんな風に接するなんてあり得ない。うん、そうに決まってる。
レナードは初めて見た兄の姿に困惑し、夢だと思い込もうとした。しかし、翌日、再び同じ光景を目撃することとなり現実だと認めざるを得なかった。
僕がいない間に一体何があったんだよ!?
とレナードは心の中で大絶叫していた。
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