第34話

数日後、リリカはレイリックに呼ばれて執務室に来ている。

馬車の中での会話を思い出して、ずっとどのような顔をして会えば良いのか分からず悩んでいたが、その悩みはレイリックの言葉により一瞬で吹き飛んだ。

「フィアーズ伯爵家のこと、調べがついたんだ」

そうよ。お願いしていたものね。

「王宮にはスカーレット嬢は次女だと届け出がされていたけど、アイラ嬢のことを詳しく調べた結果、アイラ嬢はスカーレット嬢より1歳年下、次女だと分かった」

「では、スカーレットさんの話しは正しかったのですね」

「ああ。予想通りアイラ嬢に伯爵家を継がせるための嘘だね。大方絶対にバレないとでも油断していたんだろうけど、王宮への届け出を偽ることは大罪だ。前伯爵はスカーレット嬢の母君だった。今の伯爵はスカーレット嬢やフレディ殿が成人すまでの代理でしかない」

フレディというのはフィアーズ伯爵家前当主の令息で、スカーレットの実の弟だ。

「そのことを知らなかった、という可能性はあるのでしょうか?」

「どうだろうね。伯爵夫人やアイラ嬢は知らなかったのかもしれないけど。伯爵は長い間代理として務めていたから自分こそが当主だと思い込んでしまったのかもね。それに知らなかった、で済まされることでもない。ともかく、まだ幼いフレディ殿まで連れて出ろって言うところを見るにアイラ嬢以外の者が継ぐ可能性を完璧に消しておきたいんだろうね」

「そうなのですね……」

「助かったよ、リリカ嬢」

「え?」

「君のおかげで本当のことを知ることが出来た。王宮への届け出を偽る者がいるなんて全く思っていなかったから、てっきり届け出の通りアイラ嬢が長女だと思い込んでいたんだよ。本当に思い込みとは恐ろしいものだよ」

「そうですね……」

私もスカーレットさんは次女だと思い込んでいたものね。

「あの、フィアーズ伯爵家はどうなるのでしょうか?」

「今回の件に関しては代理伯爵と伯爵夫人は厳しく罰するけど、スカーレット嬢やフレディ殿は巻き込まれただけ、むしろ被害者だから罰したりはしないよ。爵位に関しては王家が一旦預かって、適切な時が来たら譲ることになった。ああ、あとアイラ嬢に関してだけど全く無関係というわけではなさそうだから修道院送りということになるだろうね」

「どういうことですの?」

「アイラ嬢はスカーレット嬢に屋敷内で侍女として過ごすように強要していて、時には暴力も振るっていたようだ。そして、代理伯爵も伯爵夫人もその光景を当たり前のように見ていたようだ」

「そんなっ!!」

「僕も昔、伯爵家で侍女の格好をした子供を見かけたことがあったんだ。今思えば、その子供がスカーレット嬢だったのだろうね。子供が働くことはこの国では何も可笑しなことではないから気にしていなかったんだ。もっと早く気付いてあげられたら良かったのにね」

そう言ってレイリックは苦笑いを浮かべている。

「レイリック様……」

「そういうわけだから、スカーレット嬢を公爵の婚約者にしても問題はないよ」

どういうわけで?と疑問に思っていると、疑問を察したようで「スカーレット嬢が裁きを受けることはないからだよ」と言われた。

「公爵にはすでに全てを話した上で婚約に同意してもらった」

「あのお兄様が同意したのですか?」

「ああ、君からの推薦の女性だと伝えてね。そしたら、可愛い妹からの推薦ならってすぐにサインしてくれたんだよ」

「なるほど……」

お兄様らしいわね。

「ただ、評判が少し問題でね。社交界の噂ではスカーレット嬢は屋敷で頻繁に癇癪を起こし、暴れ回り、優しい姉の陰口を言う酷い義妹で、対するアイラ嬢はそんな義妹のことも悪くは言わず庇う健気な優しい姉ということになっているんだ」

「なんですか、それはっ!!」

「……噂に関しては全て嘘だと僕が証言するよ。それである程度は収まると思う」

「お願いします。……あの、スカーレットさんを今から迎えに行かせてください」

「えっ? リリカ嬢が行くの?」

「はい。約束したんです。早く迎えに行くと」

碌でもない屋敷に行って何かあっても嫌だし、あまり行かせたくはないけど、意志は固そうだし、止めても聞かないだろうね。

そう感じたレイリックは少しの間のあと

「分かった。僕も行くから少し待っていて」

と伝えた。

「レイリック様も、ですか?」

「ああ、僕にも少し責任はあるからね。それに君を1人で行かせるわけにはいかないから」

結局、リリカとレイリック、そしてロベルトとレイナとともに騎士を引き連れて向かうことになった。初めはレイナにはお留守番してもらう予定だったのだが、レイナに話しをしたところ「そのような場所に行かれるのなら私も連れて行ってください」と懇願されたため一緒に行くことになったのだ。


リリカたちはフィアーズ伯爵家に向けて出発した。

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