11年目 夏
第24話 オッサンと生配信
あれから6月に入り梅雨の時期に入り雨の多い日が続く、今日も雨の降る中、誠司は相変わらず歩いてダンジョンへ向かう。
「やっぱビーサン、最高だな」
誠司はサラリーマン時代、雨の日の通勤は嫌いだった。スラックスの裾は濡れるは、満員電車で隣の客が濡れた傘を押し付けてくるわ、革靴まで水が染み込むと一日ジメジメした気分で過ごすことになるわ、大体良いことがなかった。
それを思えば歩いていて濡れて当然のビーサンは
ダンジョンへ向かう途中でスマホに通知が届く、確認するとダンジョン部の部員から蓮の動画を見たとの連絡だった。
先日、蓮の動画がようやく投稿された。遅くなった原因として単純に二人ともダンジョンに潜っていて、動画編集を依頼した人と連絡が取れなくなっていたからだ。
それで戻ってきたあとに3人で、ああしたいこうして欲しいを話して修正を依頼して、またダンジョンに潜ってを繰り返していたから遅くなった。それだけだ。
ダンジョン内でもスマホは使えるが、深層へ向かう探索者は必要時以外電源を切っている者も多い。これは魔物に着信音はもとより、バイブの振動音、スマホの光に反応されることを避けるためだ。
逆に通話機能とヘッドセットを利用して探索を進める者もいる。この辺りはチームや状況によりけりと言ったところだろう。
どちらにしても呑気に動画のアレコレを打ち合わせできる状況ではなく、延び延びになるのは仕方なかった。
それで投稿された動画の方はというと、結構反響があり再生数がのびている。練馬を代表するAランクチームのリーダー二人が出ているというのが大きかったのだろう。
誠司もそこそこ話題にはなったが相変わらず影の
その後、いろいろなメッセージが来たが多かった「肉食わせろー」という、欲望丸出しのメッセージには「自分で狩って食え」と返し、「こっちの動画にも出て」とのメッセージには、女子部活動の動画にオッサンが交じるのはマズかろうと「顧問の天堂先生にお願いしろ」と返しておいた。
そんなやり取りをしていると通話通知が来た、相手は蓮からだ。
「もしもし」
「おー、俺だ」
探索者同士は「今大丈夫か」などと聞かない。相手につながって、通話に出たということは問題ないと認識するからだ。
「どうした?」
「あのさー、今度生配信やろうと思うんだけど、オッサン出ねぇ?」
「出ねぇよ。」
蓮の提案に、誠司は即答した。
「そもそもなんでそんな話が出てるんだよ。」
「いやさ、コメントでチラホラ『何があったのか、わかんねぇ』ってあってよ、それの解説配信でもしようかと思ってよ。」
「荒鷹の方は?」
「そっちはオッケー貰ってる。」
「じゃあ、二人でいいじゃねぇか。」
「お前も出てるから声かけたんだけど」
「まあ、謎の人はそのままにしておけ、その方が楽しみがあるだろ。」
「わかった、じゃあ二人でやるわ。あ、でも配信は見てくれよ。」
「あいよ」
蓮としても3人で撮ったのだからと色々考えたんだろう、それでも誠司がこういう態度をとったら大体何を言っても変わらないことに長年の付き合いで知っている、蓮が折れて通話が終わった。
とりあえず、ダンジョン部の連中には生配信が行われることを伝えておこう、誠司はそう思いルームに書き込みをした。
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