第28話 追放された俺、クソダサダンジョンでオッサンに絡まれて撃退したらそれがバズりまくってとか何とかそういうの

 誠司は要救助者の女性三名を抱えてボス部屋から出る。


 部屋を出ると、先頭に待っていたチームが声をかけてきた。


「お疲れ。もういいかい?」


「待たせてすまんな、もういいぜ。」


クソが捻り出されるのを待つよりはよっぽど短かったさ、そっちの嬢ちゃん達も助かったようで何よりだ。」


「そこまで言うとは何があったんだよ。」


「コイツ等、俺達をキャリー代わりにしやがった。俺等も何度か警告して、一応嬢ちゃん等もとめようとしてたんだが、クソがな。そんでボス部屋前でわざわざ追い抜きよ。」


 要は今回の要救助者のチームは、このチームの後についてボス部屋前まで来たということだ。


「そいつは…」


「無事だったのか!」


 誠司が話そうとしている所に割り込むように、一人の男が駆け寄ってくる、先頭のチームを見ると実に嫌そうな顔をしている。どうやらコイツがそのクソらしい。


「アンタが俺達のボスを倒したんだろ?さあ、次の階層へ連れて行けよ!」


「倒した奴らなら先に行ったさ、先の門はとっくに閉じてる。」


 意味不明なことを言う男に、誠司は言葉を聞く気を無くし先頭のチームに声を掛ける。


「アンタ等はさっさと行ってくれ、それと後でなんか聞かれた時に証言してくれると助かる」


「こっちは助かるが、オッサンこそいいのか?」


「こんだけ目がありゃどうとでもなる」


 誠司の言葉を受けて先頭のチームは立ち上がりボス部屋へ入って行く。


「おい、俺達がさ…ぶへッ」


 両手と背中に要救助者を抱えたままの誠司はとりあえず男の足を引っ掛けて、先のチームについていこうとするのを止める。男が藻掻いている間に誠司は要救助者を下ろす。


「何するんだ!」


「悪いな、足が長くて。短足のテメェに引っかかっちまった。」


 立ち上がって食って掛かる男に、誠司がからかうと周りがどっと笑う。


「そうか、これがギルドイベントなんだ…ここで俺がコイツを叩きのめせば皆認めてくれる…」


 男がなにかブツブツ言っているが、誠司は気にしない。


「お前、何処から流れてきた。」


 誠司は男がここにいる理由ワケを気にした。いくらマッドクロコダイルが値上がりしていると言っても、まだ他所の探索者が遠征に来るほどじゃない。

 それに遠征に来るにしても、装備を持ち込む等に時間が必要で、さらに初めてなら浅層から攻略しなければならない。つまりコイツは昨日今日で練馬に来たわけじゃない。

 その上でホームで今までこんなことをしていれば噂に上がる。そうなれば他所から弾かれたクソが、次の活動先に練馬を選び短期間で上がってきたのだと予想した。


「!?うるさい!お前は無双系の主人公おれさまにギルドでちょっかいかけて叩きのめされるモブオッサンの分際だろうが!!」


 痛い所を突かれたのか男は喚き散らすが、誠司は取り合わない。


「代々木のクズなら上野か府中に行くだろうし、上野の風俗狂いなら戸田、府中のオケラどもなら川崎に行きそうだから、大宮か戸田ってところか。」


 実際の所ダンジョン自体は構成の差はあれど、どこも難易度としてはそうは変わらない、だが支部の立場として代々木>府中>上野>練馬という意識が、純然たる事実として探索者の中にはある。そんな意識の中で東京の支部から追い出された奴があえて練馬を選ぶとは思えない。

 たとえ代々木が不良探索者クソども発生装置だとしても、練馬支部長ヒキガエルに代々木支部長が逆らえないとしてもだ。


 男の顔色が変わる、やはり支部を追い出されたがいきなり代々木に挑戦する気がなくの低ランクだと思われている練馬でブイブイ言わせる気だったらしい。


「だったらなんだよ!俺はダンジョンで無双して!ウザ絡みしてくるテメエ等を返り討ちにして!そんでそいつがバズって一躍有名人として成り上がるんだよ!」


 初手から躓いている気がしないでもないが、男が喚く。本人がそう思っているのならそうなのだろう。


「そうか。まあ、俺の知ったこっちゃねぇから後は好きにしろよ。」


 誠司は後は知らんと踵を返して列の戻ろうとする。


「待てよ!俺達をここで放って置く気かよ!」


 誠司には男が何を言ってるいるのか分からない。こちらを襲う気満々なヤツから離れたら、助けろと求められる。誠司としてはうんざりして相手にする気にもならない。


「要救助者には必要な措置を行い救助した、それ以上はチームの問題だ。」


 要救助者の女性三名をは今も気を失い寝かされている。誠司は必要なことは行ったと告げる。


「探索者ってのは助け合いだろ!なんとかしてくれよ!」


「助け合いか‥いい言葉だな。その通りだと思うぜ。」


「なら…」


「人をモブオッサン扱いして叩きのめそうとするのが助け合いなら、俺には理解できないけどな。」


 誠司は男の言葉を切って捨てる。

 そう、誠司は最初からコイツの事など何も見ていない、自分一人になるまで戦った仲間を見捨てて逃げて、仲間を助けた者に対して感謝するでもなく、一方的にに喧嘩を売ってきて、見捨てれそうになったら自分にとって都合の良い綺麗事を吐く。そんな人間の助け合いなんて言葉を真に受けるぐらいなら、犬のケツの臭いでも嗅いでいた方がマシだ。


「なっ、それは…」


「なんつってたっけ年取ると物覚えが悪くなるんだよな。」


「オッサンの場合は酒の飲み過ぎなだけだよ、『俺がコイツを叩きのめせば皆認めてくれる』って言ってたぜ。」


「他にも『ちょっかいかけて叩きのめされるモブオッサンの分際』とかな」


 男と誠司のやりとりに、周りの連中も茶々を入れてくる。


「おうおう、態々思い出したくもない言葉をありがとよ。で?テメェはさぞかしご立派な勇者様だろうから、モブのオッサン対してはコレが助け合いってわけだ。」


 誠司は苦笑しながら周りに応え、男に問う。


「そ、それは悪かったよ、すいませんでした、謝るから許してくれ。」


「まあ、いいさ。」


 所詮口先だけの話だ、実害など無いので誠司は放って置くことにする。


「それじゃあ、助けてくれるのか。」


「断る」


「なんでだよ!謝ったじゃないか!」


「オレを罵倒したことに謝罪したことと、この先のお前らを手助けすることは別だからだ。後は自力でなんとかしろ、つうかリターンクラッカー使えよ。」


 バカは頭一つ下げれば、あとは許されて手助けしてくれると思っているが、誠司も周囲の奴等もサラサラそんな気はない。


「…持ってない」


「そうか、じゃあ仲間を抱えて歩いて帰るんだな。」


「アンタは持ってないのか?」


「持ってるぜ。つうか命知らずの馬鹿だって持って入ってるわ。」


 誠司は面と向かって男をバカにする、お前は馬鹿以下だと。


「売ってくれ。」


「いいぜ、200万だ。」


 そんなことにも気が付かない男は交渉を持ちかけ、誠司はバカ相手にようやく話が進んだとウンザリしながら値段を言う。


「な、そんなのボッタクリじゃないか!」


「救助に入った人間のこと散々コケにしてマトモな値段で売ると思ってんのか?」


「それは…さっき謝ったじゃないか。」


「そうか、じゃあスマン実は今でも根に持ってる。謝ったから許してくれるよな。」


「だからって200万は!」


 誠司は根に持っていることを謝った、謝れば許されるのであれば男は誠司のことも許すべきなのだろうが、眼の前のバカは気が付かない。


「だったら他のやつに頼むんだな。」


 男は周囲でボス待ちをしているチームを見渡す。


「誰か、誰か頼む!俺を助けてくれ!」


 そんな男の必死の懇願が通じたのか、一つのチームが声を上げた。

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