第27話 ボス待ちっく天国
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練馬ダンジョン四十層
あれから誠司は三十九層から四十層を探索し、ある程度のマッドクロコダイルのドロップを確保した。
さてここから帰ろうかとした場合、帰還方法としては3つ
1.この先の階層ボスを倒して、この階層の転移陣を使う
2.来た道を引き返して、三十層の転移陣を使う
3.帰還アイテム、リターンクラッカー(100万円)を使う
正直3は論外として、2も今更来た道を引き返すのも面倒臭い、ここまで来たら1以外に選択肢はほぼ無いのだが、祭りの日だ。誠司も覚悟してボス部屋へ向かう。
「絶対混んでんだろうなぁ。」
案の定、ボス部屋の手前には人が並んでいる。だが思った程ではなく20人弱と言ったところ、チームで並んでいる所もあるため実際はもっと少ない。
誠司はこれならサクサク行けば一時間ぐらいで帰れるなと思いながら、最後尾と思われる探索者たちに声を掛ける。
「あんたらがボスの最後尾でいいか?」
「ああ。」
短いやり取りで、最後尾にいた探索者から少し離れたところに誠司は座り込み、ポーチからブロック栄養食とゼリー飲料を取り出して食べる。あと少しとはいえ、補給はできるときにしておきたい。
僅かな時間で補給を終えるとそのまま体を休める。
しかし10分経っても列が動かない、誠司はおかしいと思い始める。今日ここに並んでるのは、Cランク連中のはずと。
D上位が稼ぎでワニ狩り専用に来ているならば、今日に敢えてボスに挑むなどという危険は冒さない。
Cランクとて大人数では逆に効率が下がるため、少人数かつボス討伐の出来る自信があるやつが並んでいるはずだ。
勿論Dランクでも今日ボスに挑むやつがいるかも知れないが、それにしても撤退判断を含めて時間がかかっている。
『助けでくれえぇぇぇぇ』
ボス部屋の方から叫び声が聞こえた、先頭の奴らは動こうとしない。おそらく今助けを求めているのが、助けたくないような奴なんだろう。
こういった判断は助けに入る探索者側に任される、助けに入った挙げ句巻き込まれて、責任を負わされては叶わないからだ。
「我らが征こう。」
列の中程から声が上がる、鎧武者二人と
「サポートでいいならオレも入る」
鎧武者が誠司に顔を向けるが、お互い練馬で活動する見知った顔だ。あちらも誠司だと認識すると頷いた。
「取り分は?」
「いらん、面倒だ。」
誠司は鎧武者たちに合流し、ボス部屋へ向かう。
「先に往かせてもらうぞ。」
「構わねぇよ、こっちも待ちくたびれたからな。さっさとヤってくれ。」
先頭に並んでいたチームに鎧武者が声を掛ける、リーダーと思われるやつが答えるがひどく投げやりだ、余程のことがあったんだろう。
ボス部屋と言っても特に扉があるわけではない、ボスが出てこない、部屋の外からは攻撃が遮断される不思議ベールが一枚あるだけだ。
誠司達がベールをくぐる時、同時に一人の男が飛び出していった。だが、今はそんな事に構っている暇はない、作戦は共有している。鎧武者二人がボスに突撃していく、四十層のボスは通常であれば蛟かドラゴンパピーのどちらか、今回はドラゴンパピーだったようだ。
鎧武者が果敢にボスに立ち向かい気を引き、その間に歩荷が一番近い要救助者へ駆け寄る。
「要救助者一人確保です!結界石張りました!」
歩荷に事前に結界石と中級ポーションを持たせている。ポーションもおそらく使っていることだろう。
今回の要救助者は3人。誠司は残り二人を助けるべく行動を開始する、学校の300mトラックがある校庭程度の広さの部屋の中、一人は部屋の奥、もう一人は左側の壁際で倒れている。鎧武者たちもそれを把握しボスの意識を部屋の右側へ持っていこうとしている。
誠司はどちらから救助に向かうべきか考える、左から行けば、往復分時間が掛かる。奥から行けば一度に二人回収できるが、その分こちらの行動に制限が出る。
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左側の要救助者の元に誠司が現れる、誠司は多少の時間がかかっても確実に回収する方を選択した。
とりあえず大きな出血だけは無い事、呼吸があることだけ確認すると要救助者を抱えあげて、ボスの視界に入らないよう気をつけながら結界の方へ向かう。
スキルというのは便利だが万能ではないし、一律ではない。馬の時は魔物相手でどうなっても良かったから<縮地>を使ったが、人にどうなるかわからんけど実験に付き合ってくれとも言えない。ましてや、怪我人を抱えた状態では使うわけには行かない。
そんなわけで誠司は怪我人を抱えた状態で走っている。
鎧武者の片方が野太刀でボスの前脚を切りつけて、ボスが叫び声を上げている間に結界に到着する。要救助者を降ろすと、歩荷が素早く診断していく。
「これなら中級ポーションで間に合いそうです。」
歩荷の言葉に、誠司はポーチからポーションを取り出して渡す。
「もう一発行ってくるわ。」
「はい、こちらは任せてください。」
要救助者にポーションを飲ませて世話をする歩荷に、誠司は一言告げて結界から出て、そして<
誠司は奥の要救助者の元へ跳ぶ、こちらはブレスでも食らったのか防具が焼け落ちて火傷が酷い、とりあえず見える火傷にポーションをぶっかけてから、誠司は要救助者を抱えて走り出す。
向かうは学校のグラウンドほどの広さもあるボス部屋の反対側だ。
「陸上競技じゃねぇんだぞ!」
誠司は毒づきながらボスにバレないように部屋を大回りしながら走るが、運悪くそんな所にドラゴンパピーの注意がこちらに逸れる、ヤツの牙も尾も届く距離ではない、ならば来る手段は一つ。
ドラゴンパピーからブレスが吐かれると同時に、誠司は要救助者を壁際へ高く放り投げ<縮地>を発動させる。
壁に着地した誠司は要救助者を受け止めると、もう一度放り投げ<縮地>を使う。その間にも鎧武者達がボスをぶん殴って気を惹かせている。
「こちとらサーカスに転職した覚えはねぇぞ、クソが!」
盛大な愚痴を吐きながら要救助者を空中で受け止めた誠司は着地し、そのまま結界の中に滑り込む。
「ブレス食らって火傷状態だったからポーション先にぶっかけといた。」
誠司は要救助者を下ろすと歩荷に現状を伝える、歩荷は直ぐに要救助者の状態を確認していく。こういう時にデキる歩荷が居ると本当に助かる。
「中級ポーションもう一つありますか?」
歩荷の言葉に誠司はポーションを取り出して渡す、歩荷は自分のバッグから空の香水瓶を取り出すと、いくらか瓶に注ぎ残りは要救助者の口に突っ込む。
そして歩荷は要救助者の装備をひん剥いて、隠れていた火傷部分にポーション入りの香水瓶を吹きかけていく。
「あんまり見ないであげてくださいね。」
「紳士とは言えねぇが、それぐらいわきまえてるよ。」
今回の要救助者3名は全員年若い女性だった、逃げていった男がチームメンバーならハーレム野郎かよと思うが、それはそれとして鎧武者たちにも牽制の必要がなくなったことを伝えなければならない。
「要救助者、全員回収完了!後は頼んだ!」
「「応!!」」
誠司の言葉に力強い返事が返ってくる。
それから数分後、ドラゴンパピーが地に伏せていた。今回の様な力あるメンバーが揃えば本来こんなものだ。その間にも大暴れしたり、ブレスを吐きまくったりしたが対策さえできていれば問題ない。
鎧武者二人にわざわざ牽制に終止してもらったのは、要救助者を回収するためだ。
「分前は本当にいいのか?」
「いらん、今から言ったことを変えちゃ問題しか出ない。」
「相分かった。」
誠司の潔い態度に、鎧武者も深く頷く。
「歩荷殿、ポーションは何本使われた?」
「中級ポーションを3本貰いましたが、一人回収時に一本使ったとのことなので4本ですかね。」
「ふむ」
鎧武者の片割れが、ポーチから中級ポーションを三本差し出してくる。
「それぞれの役目があったとはいえ、お主一人に金銭を負担させたとあれば武士の名折れ、せめて折半はさせて欲しい。」
「悪いな、有り難くいただくよ。」
結界石の代金も含めればそんなもんだなと、誠司も素直に受け取った。これには鎧武者達も安堵した様子を見せる、これ以上は道理を欠く行いだと思っていたからだ。
それからはボスの処理をしたり、散らばっていた装備の回収をして、三人とは別れることになる。
「では、我らは先に往く。」
「おう、またな。」
鎧武者達3人は部屋の奥に向かい、要救助者3名を抱えた誠司はボス部屋の入口を目指す。
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アイテム紹介
結界石:叩き割ることでその場に直径5m程の結界を張る一時避難用の不思議アイテム。結界内は魔物から認識されず攻撃は届かないが魔物と接触していると結界の耐久度がゴリゴリ削れていく。お値段50万円。支部によっては各種補助制度あり。
リターンクラッカー:見た目はただの大型のかんしゃく玉、使用することで周囲3m程の対象をそのダンジョンの一階の転送陣に転送する。戦闘中の緊急離脱時では結界石で安全を確保したうえでメンバーを回収し、コレを使用するのが一般的
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