第29話 助け合いの心

 仲間を見捨てて逃げた男が帰還用アイテムを求めたところ、誠司から200万を請求され、周囲のチームに助けを求めたところ思いも寄らない声が上がった。


「50万出そうか?」


「本当か!?」


「ただしそっちの娘をウチのチームに入れることが条件だがな。」


「えっ?」


 援助の声に男は一瞬喜ぶが、出された条件に動きが止まる。ボス待ちで並んでいた奴等盛り上がる。


「そいつはいいな!ウチも右の娘で50万出すぜ。」


「それならオレんとこは真ん中の子で50万だ!」


「俺は60万出して受け入れるぜ!」


 周囲は未だに床に伏せた様子の三人の娘の競り市の様な状況だ。


「で、アンタはどうするんだ?」


「ふざけるな!!仲間を売ることなんて出来るわけ無いだろ!」


「そうか、ならとっととそいつ等抱えて帰んな。」


 いい加減の堂々巡りに誠司は正直マトモに相手する気も起きない、まあ最初からだが。


 男は周囲を見回すが誰も囃し立てるだけで、助けになってくれるような者はいない。ついに男は選択した。


「…わかった、売る。」


「ならさっさと何処にするか選べ。」


 男は声を上げたチームの中から3つ選択する、その選択に周囲にドット笑いが湧く。


「おいおい、コイツ仲間見捨てるって決めたら高いところから選びやがったぜ!」

「ビタ一文払いたくないってか?」

「それで良く「仲間を売ることは出来ない!」なんて言えたもんだぜ。」

「お嬢ちゃん等も可哀想になぁ、体張って守って救助されたと思ったら見捨てられましたなんてよう!」


 男は何か耐えるように俯いているが、それが誠司には一切理解できない、それなら最初から200万借金でも何でもして払って帰還すればいいとしか思ってないからだ。


「おい、200万超えてるだろ!余りを寄越せよ!」


 挙句の果てにはこの言様いいざまだ。


「200万でリターンクラッカーを渡す俺への援助であって、仲間を見捨てるテメェにじゃねぇよ。」


 誠司としてはもうさっさと何処かに言ってほしくて仕方ないが、もう少しだと思って相手をする。


「なっ!」

「いい加減学べ、嫌ならさっさとそこの三人抱えて消えろ。」


「…わかった、クラッカーを寄越せよ。」


 誠司はようやくこの頭の足りない男にも言葉が理解できたと思い、ボス部屋の通路の来た道を指差す。


「ここで渡すわけねぇだろ、列の最後尾より下がってそこで渡す。」


「わかった。」


 誠司と男は二人で列の後方、通路の先へ向かう。


「ちなみに俺をどうこうしようとしても無駄だぞ、ここにいる全員が証人として見ているかなら。」


 沈んだ様子の男に誠司は追い打ちをかける。それならここの連中をどうにかすればとか考えてるんだろうなと思いながら話を続ける。


「つうか、今ここに集まってる連中は、来た道を戻るのが面倒だからさっさとボス倒して戻ろうぜって奴等だぞ。テメェごときが敵うわけがねぇぞ。」


 誠司の言葉に男は心を見透かされている気分になりながら歩く。


「それなら俺を助けてくれても…」


「学習しねぇやつだな。仲間の救助はした、帰還方法も提示した、十分助けてるじゃねぇか。おまけにお前はタダで帰れるんだ。ほれ、お前はもっと先へ行けよ。」


 ボス待ちの列の最後方に着くと、男をもっと先へ歩かせる。


 十分離れたところで誠司はポーチからリターンクラッカーを取り出し男へ投げる。男は受け取ろうと手を差し出す。


「お前は一つだけ正しいことを言ったな、探索者は助け合いだって。だから仲間を助けないお前を俺達が助ける義理なんて無い。」


 誠司はそう言って、男の手に渡る直前に、誠司は手に握っていたパチンコ玉を指で弾いてクラッカーを撃ち抜き発動させた。

 男はクラッカーを受け取ってからの行動を色々考えていたのだろう、それをまとめて台無しにされて最後にアホ面を晒して帰還していった。


「部活動ってのも案外役立つもんだな。」


 誠司はダンジョン部との活動でたまたま持っていたパチンコ玉を見ながら呟いた。




 誠司は一人で、まだ床に伏せている三人の下に戻る。


「オッサンはいいのか?」


「ん?あんなバカいつまでも相手にしていたくもないし構わんさ。それに俺達は優良探索者ホワイトだぜ、人身売買なんかする訳無いだろ。」


 近くにいたチームの探索者からの問いかけに誠司は肩をすくめながら答え、周囲に笑いが起こる。そう、最初から周りのチームから金をとる気はなかった。ただ男の覚悟が試されていただけだった。

 まあ、結果はご覧の通りだったが。


「さて、そっちのもいい加減、寝転がってないで起きてくれ。」


 誠司が声を掛けると、床に伏せていた三人が起き上がる。だが三人共こっちを警戒した様子だ。まあ、声だけとはいえ聞こえてくる様子では安心できる状況とは言えないだろう。


「私達はどうなるんですか?」


「何度も言ってるが、好きにしろよ。救助要請の義理は果たした。またココからなのはいい加減にして欲しいぜ。」


 誠司の言葉に三人は顔を伏せる。


「ただまあ今日はもう疲れた。ボス待つのも倒すのも面倒だ。いい加減帰りてぇし、一緒に帰るなら連れて行ってやるよ。」


「あのお願いします!」


 真ん中の娘が真っ先に返事をする。他の娘も顔を上げて誠司を見つめてくる。


「俺達も便乗いいっすか?」


「別にいいが、お前らは50万な。」


 列の中程のチームから声が上がるが、誠司はしっかり金を請求しようとする。


「なんでっすか!」


「お前らは自力で帰れるのにサボろうとすんな、あと他のチームも集めりゃ頭割りで安くなるだろ。」


 誠司としてはタダ乗りされるのが嫌なだけで、一緒に帰ること自体は嫌ではない。なので安上がりになる方法を伝えると、そいつらは他のチームに声をかけ始めた。


「あの、それなら私達も一緒に負担します!」


「そいつはいい提案だ。」


 そのままでも帰れた3人が自らの懐を痛める選択をする、誠司はどこぞのやつとは違うなと思いながらそれを受け入れた。



 最終的には誠司達含めて15名程の人数になり、列の最後方に向かう。


「それじゃ、いくぞ。皆寄れよ。置いていかれても知らねぇからな。」


 リターンクラッカーの効果範囲は3m程度の為、装備を着込んだ探索者達が押しくら饅頭状態だ。そんな状態で誠司はリターンクラッカーを使用し、帰還した。

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