第30話 帰るところ

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 探索者協会練馬支部 1F ロビー


 誠司達は支部の転送陣の上に現れる、転送陣から避けて人員確認をする。


「乗り逃した奴はいないよな。」


「オレ達は問題ないぜ。」「こっちもだ」「全員いるぜー」


 同乗したチームから返事が来て、どうやら全員戻れたようだと安堵する。そのままぞろぞろとクリーニングルームに連れたって行き、装備の洗浄後に待合室を出てロビーなんとなくボーッとしていると、声をかけられる。


「小山さん、少しお話を伺わせて貰ってよろしいですか?」


 そこには受付課のバリキャリ男子こと寺島課長と、道明寺雛菊、それとついさっき仲間を見捨てて逃げ帰った男がいた。


「構わんぞ。」


 いい加減ウンザリしながらも、この二人なら話は早かろうと誠司は向き直る。


「こちらの男性から貴方にボス討伐を邪魔され、その後怪我を負った仲間を人質に金銭を要求されたとの訴えが出ていますが、事実確認をさせてください。」


「ハッ、まず俺はソイツの救助要求に則って鎌倉兄弟と同行の歩荷と一緒に要救助者の救助を行った。その際にかかった費用はその男のチームに一切請求していない。」


 鼻で笑いながら誠司は話し始める。ちなみに鎌倉兄弟とは鎧武者二人組のことだ、今日は祭りに参加するために歩荷を雇ったのだろう。


「嘘だ!俺に…」

「黙ってください。その際に使用したアイテムはわかりますか?」


 男が何かを訴えようとしたが、寺島が止めてこちらの聴取を続ける。


「俺からは結界石一つと中級ポーション4つだ。向こうが他に何か使ってるかは知らないが、その後、鎌倉兄弟から中級ポーション3本の支給を受けて別れた。今なら買い取りあたりにまだいるんじゃないか?」


 男は驚いた顔をしているが、誠司も寺島も気にもとめない。


「わかりました、道明寺さん館内放送での呼び出しをお願いします。」


「はい」


 雛菊が手元のスマホを操作し館内放送を行う。


『チーム鎌倉兄弟様と同行された歩荷様、本日の救助要請についてお話を伺わせて頂きたいことがございます。館内におられましたら、至急ロビーにおります受付課寺島の所までお越しください。繰り返します…』


「時間を無駄にする必要はありませんね、話を続けましょう。」


「ああ」


 寺島と話しながら、誠司はなんでこうデキる奴と話すと話が早くて、バカ相手だと堂々巡りになるのかと思っていた。


「その後は俺は要救助者三人を抱えて、ボス部屋の入口側から出た。俺もボス討伐して出るつもりだったし、三人を奥に進ませるわけにも行かなかったしな。」


 そう話していると、助けた三人がこっちに寄ってきた。館内放送を聞いて自分たちのことだと思って駆けつけたのだろう。


「ほれ、アイツラ三人だ。」


「お前ら無事だったのか!」


 男が叫ぶと、三人の足が止まり身を寄せ合い男を睨みつける。


「おい、俺た…」

「いい加減時間の無駄ですから黙ってください。事情聴取の最中です。」


 寺島が警告を行い男の言葉を遮る。


「その後は、そこの男が戻ってきてな。ボスを倒すなり、仲間を抱えて戻るなり、クラッカーで戻るなり好きにすればいいと言ったが、どれも出来ねぇと巫山戯たこと抜かしやがってな。」


「急な呼び出しと聞いたが何用か。」


 誠司が続きを説明していると、よく似た大男二人と一般サイズの女性一人が寄って来た。装備こそ外しているが彼らが鎌倉兄弟と歩荷だろう。


「小山さん、彼らにお話を聞きますので少々お待ち下さい。」


「おう」


 寺島は彼らに向かい事情聴取を始める。男が震えているのが装備をしている上からでもわかる、それは怒りか恐怖か。雛菊はそんな男の側に佇んでいる。


 話が終わったのか寺島が戻ってくる、ついでに鎌倉兄弟達もだ。興味があるようだ。


「お待たせしました、話は終わりました。続きをお願いします。」


「ああ、仕方ねぇから俺がクラッカーを売ってやるって言ったのにそれも拒否しやがる、探索者は助け合いだってな。」


「嘘だ!ソイツはリターンクラッカーを200万で俺に売りつけようとしやがったんだ!」


「本当ですか?」


「ああ?嘘は言ってねぇだろ。売るのは本当だし200万という値を付けただけだ。」


 喚き散らす男に対して、寺島に問われても誠司はひるまない。


「まあ、コンビニで売られているアイテムをいくらで取引しようが自由ですしね。」


 寺島もその一言で済ます。


「おい、そんなこと許されるわけ無いだろ!困ってる奴等に手を差し伸べるとかよ!」


「つまり貴方はロクに準備もできない、する必要もないと思ってダンジョンに挑んで、駄目なら周りがそれを自腹を払って助けるのが当然だと思っているのですか?」


「えっ?」


「彼らは今回の探索で、救助要請を受け救助活動を行い、そこにかかった費用の請求は行われておりません。

 そこからさらに貴方は彼らに何を負担を強いようとしているのですか?

 チームのリーダーである貴方が何故真っ先に自分で負担を負おうとしないのでしょうか?」


 寺島の矛先が男に対して向くが、男は寺島の指摘から目を逸らして喚き散らす。


「嘘だ、コイツラは寄って集って俺の仲間を金で買い上げようとしやがった悪党なんだ」


「認識の相違だな、同じ場にいた他チームから金銭の補助の話はあった。ただそれは移籍における補償金の提案でしか無い。別に強要もしていない。あくまで提案だからな、その件で俺は一銭も受け取っていない。」


 探索者の世界にもプロスポーツのような移籍による補償金を支払うことは稀にある。ただプロスポーツのようにルール化されていないため、落とし前に近い形ではあるが両者の間で金でかたを付けるということもあるということだ。ただそれは本人の意志を介さないところでは行われない。

 どちらにせよ、今回それは提案で終わっている話だ。勝手に男が仲間の女子に値を付け、帰還アイテムを受け取り使用した。だが実際には金銭のやり取りどころか本人を含めた交渉すら行われていないのが実情だ。


「それにだ、名乗りを上げたチームは入れる、あるいは引き受けると言ったが、そいつだけ明確に『売る』と言った。

 で、そいつ一人が200万分仲間を『売って』ロビーに戻った、てのが俺の知るところだ。」


 誠司の言葉に周りがザワリとし、男に視線が向く。


「証拠はありますか?」


「そいつと会ってからの動画なら撮ってある。他所のチームでも撮ってるところあるんじゃないか?金のやり取りならアプリの履歴でも追ってくれ。」


「あ、ウチでも撮ってるっすよ!少し遠いから映像はどうかと思うけど声は入ってると思うっす。」


 抜け目なく動画を取っていた誠司に、連れてきたチームが援護射撃をしてくる。


「動画を確認しますのでこちらに送っていただけますか。」


 寺島から提示されたアドレスに対して、誠司と他に動画を撮っていた者が動画ファイルを送信する。


「おい、お前ら!俺を助けろよ!仲間だろうが!そもそもなんでお前らもう帰ってきてるんだよ!」


 旗色が悪いと感じたのか男は自分が見捨てた三人に対して、助けを求める。


「ふざけないで!」

「私達を見捨てて一人で逃げて、挙げ句に売り渡そうとしたアンタは仲間じゃない。」

「アンタが一人で先に帰還してることがその証拠じゃない。」


 三人からは当然のごとく拒絶の言葉が出るが、男は信じられなさそうな顔で見ている。


「そいつ等が帰ってきたのは、俺がどっかのバカ相手に疲れたから返ってくるのに、便乗しただけだ。他のチームもいるぞ。」


 誠司の言葉に、男はこちらを睨みつけてくる。


「それなら最初から俺も助けてくれれば良かっただろうが!」


「お前のようなド級のバカ相手にしなけりゃ、ボス倒して戻ってたんだよ。それにもう時間切れだ。」


「えっ?」


 男には誠司の時間切れという言葉の意味が理解が出来なかった。


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 長くなってパートを分けて書いてたら、さらに倍になるとか

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