第11話 4月1日 裏
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遮光カーテンが引かれた真っ暗な部屋、カーテンをわずかに避けて眩しそうに外を見やる者とそれに付き従う影。
「フ…、雑魚にマトモな働きを出来るとは思ってなかったが、案外楽しめそうなのが引っかかったな。」
「直ぐに次の者を準備いたします。」
「二人ともなにやってるの?」
練馬清心学院ダンジョン部 部長 3年の駒沢灯里は、同じく3年 東洋子と2年 神奈川絵美に声を掛ける。
「「闇の探索者協会ごっこ」」
練馬清心学院ダンジョン部総員10名が部室に集まって昨日の配信を見ている。部長の駒沢灯里含めた5名が襲撃されたところから救助されたところまでだ。時間にすれば10分も無いだろう。だがそこには誠司の姿は映っておらず、影の塊がノイズを発し襲撃者を撃退する姿があった。
「昨日の配信はもうみんなも見ているでしょうが、改めて流させてもらいました。」
灯里が動画を停止して、部員を見渡す。進級して2年になった子が手を挙げる。
「ぶちょー、この黒い…人?はなんなんです?」
「救助に駆けつけてくれた探索者の方です、黒かったり声が録音されてないのはよくわかりません。」
被害に合わなかった部員は困惑顔だ、灯里自身配信を見返すまで影はともかく声まで入っていないとは思わなかったからだ。
そこでもう一本の動画を再生する。
「こちらは公開しないことを約束したうえで、撮影したものです。」
動画には二人組を嵌めたときの映像が映っている。これは配信ではなく録画したものであり、二人組が後でゴネたときの証拠として誠司からの指示もあって行ったものである。
そちらには誠司の顔や声は映っているが、その冴えない様子に誠司を知らない部員はテンションが落ちる。というか容赦のない行動にドン引きしている。
自分たちが見て憧れ目指していたダンジョン配信インフルエンサーの世界とあまりにもかけ離れていたからだった。
灯里は悩んでいた。昨日のことを受けてダンジョン部はどうなるのか、ダンジョン部はどうしていくべきか、自分はどうしたいのか、部員の子たちはどう思っているのか。結局わからないということしかわからなかった。
「警察の方がおっしゃっていましたが、極浅層でこういう被害に合うのは珍しいと。逆に先に進むことによって増加する傾向があると。みんなにはそれぞれがどうしたいかを考えてください。これを見てダンジョンが怖くなったでも構いません。自分がダンジョン部でどう活動したいのかを考えてください。」
「あの、救助に来た探索者の方ってどんな方なんでしょうか?」
それぞれが黙り込む中、1人が声を上げる。
「小山誠司さんというCランクの探索者の方で、なんというか独特の方でした。」
「偏屈なオッサンだよ。」
「でも気前はいいよねー。」
灯里がせっかく言葉を濁したのに、洋子と絵美が台無しにする。
「ケーキ美味しかった。」
「また食べに行きたいですね。」
翠子と咲希も乗っかってくる、話は転がりケーキを食べに行った話になってしまう。
「え~、ずる~い。」
「今度みんなで行きませんか?」
このままズルズル雑談になりそうなので、灯里は方向修正を図る。
「はい、そこまで。みんなちゃんと考えてね。
私は昨日からずっと考えてたけど、『強くなりたい』って思ってます。部長なんて言っても結局みんなと逃げ回るしか出来なかった。だからみんなを守れるぐらいに強くなりたい、そのためにダンジョンに潜りたいって思ってます。」
灯里が部員一人ひとりの顔を見る。
「今日今すぐ答えを決める必要はないです、一人で考えてみてもいいですし、仲間と相談しても構いません、勿論私も何時でも相談を受け付けます、じっくり考えてください。とりあえず今日はこのまま解散しましょう。」
灯里がお疲れ様でしたと声を掛けると、部員たちも挨拶をしてそれぞれ散っていく。部屋には灯里と洋子が残される。
「灯里、いいの?人減っちゃうかもだよ。」
「仕方のないことです、先に進めば昨日のような目に遭う可能性は高くなるんですから。」
前に進むのであれば勇気を持って一歩踏み出す、前に進めないようであれば退却するべきだ。前にも後ろに進めずその場に踏みとどまっていては何も変わらないのだから。
「同好会からやり直しかな~。」
「創部2年の伝統を誇る部活ですから、今更ですよ。」
ダンジョン部は灯里達の一つ上の代の先輩たちが作ったものだ、最初に同好会を一年、灯里たちが入って部活に昇格し今に至る。
「オッサンはどう?コーチ受けてくれるかな。」
昨日5人で話していたことだ、誠司をダンジョン部のコーチに呼べないかと。
「まだ話してませんよ、どっちにしても今日のことの結論が出てからですし。洋子はどうするつもりなの?」
「アタシ?アタシは続けるよ、今度ああいう奴らに遭ったらケチョンケチョンにしてやるんだから。でもまあ、ちょっとした小遣い稼ぎついでって気持ちじゃいられなくなったかなぁ。」
洋子は平日はみんなで訓練して、土日はダンジョンに潜って全員2,3個ぐらい核石とドロップ品を拾ってはみんなでお茶して帰る、そんな活動が気に入っていた。多分この流れは変わらないだろう、ただ今後もダンジョン部を続けるのであれば訓練やダンジョンに入ったときの意識の質を1段も2段も上げていかなければならないと感じていた。
灯里は思う、明るい洋子ですら、今回の件はかなり影響を受けている、他の部員にとってはどれくらいなものなのだろうか。
灯里は部活存続をインフルエンサーであるサンジェルミン角佐藤に向けて祈った。
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お知らせ:4話時点の2年、現3年生のランクを下方修正しました。
人物紹介
●練馬清心学院ダンジョン部(11話 4月時点)
・3年生
・2年生
清心学院の元ネタは中村橋駅すぐ南にある中高一貫女子校様です。まあ、これはわかりやすいですよね。なお現在では完全中高一貫制となっているそうですが、作中では高校受験を受け入れる設定となっております。
・サンジェルミン角佐藤…ダンジョン配信のインフルエンサー探索者、本拠地は札幌ダンジョン。G~D下位向けの攻略情報やツール紹介などで人気を博している。ランクはCランク
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