第10話 オッサンの生態について 2
探索者協会練馬支部1F 買い取りブース 夕暮れ前
誠司は1日のアタックを終えて戻り、クリーニングルームで汚れを洗い落として、買い取りブースへ向かう。銀行よろしく整理券を取ると椅子に座ってのんびりと待つ。
番号が呼ばれると誠司は指定されたブースへ向かう。ブースに入ると購買担当の吉野信子と四角いの丸いのとがいた。
「小山くん、紹介するわね。今年の新人の
「「よろしくお願いします。」」
「今日は春の新人大感謝祭かよ。」
「そうよ。」
吉野に誠司は軽口を叩きながらブースの遮音カーテンを閉めると椅子に座る。
「それでは探索者カードを…。」「こちらに核石を…」「こちらにドロップ品を…」
事前に教わっていただろう新人のオペーレーションに従って誠司は今日の獲物を出していく。
「今日はレア物がないのね。」
「滅多に出ねぇからレアなんだよ。」
新人の様子を確認しながら、ドロップ品をチェックしていた吉野に誠司は返す。
先日アイテムバッグをドロップしたが、バッグ・ポーチに限れば誠司が10年潜って3個。一個目は運転資金として売却し、二個めが今使っているポーチ、三個目が先日ドロップしたもの。勿論他の探索者もいるため出物はもっとあるが、その数は限られたものとなる。
「査定完了しました、確認お願いします。」
誠司はカウンターのタッチパネルに表示された買取価格一覧を確認して承認ボタンに触れる。
「「お疲れ様でした」」
「今日はありがとうね」
「あいよ」
新人二人の折り目正しい礼と吉野の言葉に、誠司は軽く答えてブースを出ていく。
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探索者協会練馬支部1F 買い取りブース内 夕暮れ前
購買課の新人の
自分たちの教育係として付いている上司がわざわざ呼んだCランク探索者は十一層から三十層にかけてのドロップ品をチョボチョボとしか出てこなかったからだ。
これより前に何件か査定を担当させてもらったが、Eランクチームでも頭割りにすれば同程度の金額、Dランクチームは総額100万程度だったことを考えれば、Cランク探索者としてはあまりにも少ない。
「査定完了しました、確認お願いします。」
炭井と小野鳩が互いにダブルチェックし上司の吉野に確認をしてもらい、査定結果を提示する。
眼の前のロートルとも言える探索者は結果を一瞥して承認する。
「「お疲れ様でした」」
「今日はありがとうね」
形式通りの挨拶をする二人に対して、吉野は感謝の言葉を伝えていたのが不可解だった。
「あの、今の人は?」
「ウチの稼ぎ頭の1人よ、面通しさせたんだからちゃんと憶えておきなさい。」
炭井の疑問に吉野が答える。新人二人は稼ぎ頭と言う割に今日のあまりに低い査定に納得がいかない。小野鳩は今日担当した他の探索者との違いに反発する。
「でもあの人の浅階層のドロップ品が少量しかありませんでしたよ。」
「探索者の買取品にはね、その人やチームの意思や行動が現れるのよ。貴方達はまだ彼は勿論、他の探索者を知らないからしょうがないけど、そのことは憶えておいてね。」
吉野は二人に諭す。事実、誠司は先日の襲撃を受けて今日は十一層から警戒してまわっていた、不届き者が自分より強い者を狙うわけがなく浅階層の探索者が被害に遭いやすからだ。
また探索するにしてもあくまで移動狩りの範囲に収め、そこで活動する探索者の邪魔にならないようにしていたのが今日の結果だ。吉野はそれを読み取っていた。
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探索者協会練馬支部前 夕暮れ時
受付を済ませ支部を出た誠司は迷っていた。なにか腹に入れて帰りたいが昨日散々のみ散らかしたので今日は南側の気分ではない。少なくとも一日は空けたい。
「気が向いたところに入ればいいか」
言葉にしてみれば、いつものことだと誠司は納得し西武池袋線の線路沿いを中村橋の方へ歩き始めた。
池袋線の高架下をのんびり歩く、夕日に落ちていくのを眺めながら歩くのも悪くない、誠司もあと30歳ほど若かったら走り出して青春していたかもしれない。
ぶらぶらと歩くと赤ちょうちんを見つける、古き良き小料理屋 加古田。この店も久しぶりだなと思い暖簾をくぐった。
「いらっしゃい、あら誠司君久しぶり。どこでもどうぞ」
女将さんが出迎えてくれる、夫婦ふたりでやっているこの店はカウンターの座席だけ、時間が早いせいか他の客はいない。カウンターには大皿に盛られた料理がいくつか並び、あとは黒板メニューぐらいだ。
誠司は中ほどの席につく。
「瓶ビールと里芋煮と、そっちのアジの南蛮漬け、厚揚げ豆腐。大将、なにかオススメは?」
「菜の花が旬で入ってるんで辛子和えがあるよ。」
「じゃあ、それで。」
女将さんが手際よく料理を大皿から取り分けて、瓶ビールの栓を抜いてグラスと一緒に誠司の前に置く。
「大将、女将さん一杯どうだ?」
「あらいいの?」
「一杯だけなら付き合うよ。」
女将さんがグラスを2つ用意して、誠司はビールにグラスを注ぐ。菜の花の小鉢を持ってきた大将もグラスを持つ。
「乾杯。」
グラスを掲げビールを口にする。生には生の、瓶には瓶の良さがある。瓶はなんというか家庭の雰囲気だ。オヤジがナイター中継見ながら晩飯のおかずを肴に手酌でビール飲む、今でこそ缶の手軽さに取って代わられたが、瓶にはそんな印象がある。
誠司は小鉢に箸を伸ばす。菜の花のほろ苦さと辛子のツンと来る辛さもまたビールに合う。そうしたら今度は南蛮漬けに手を出す、ビールに合う。ぐいぐい飲むわけではない、料理を一口、ビールを一口、誠司はのんびりと盃をかさねていく。
誠司がチビチビと飲んでいたら、いつの間にやら席も半分ぐらいは埋まっていた。そろそろ御暇しようかと腰を上げる。
「女将さん、お勘定。」
「は~い。誠司君、なにか持って帰る?」
「じゃあ、南蛮漬けとポテサラとこんにゃくの煮付け。」
「はい、じゃあこれがお勘定。ちょっとケースに詰めるから待っててね。」
誠司は現金を取り出しながら考える。
「女将さん、電子マネーは入れないのか?」
「う~ん、ウチみたいな小さな店だと手数料がねぇ。」
誠司はなるほど、ジジイに相談してみるか、と考える。あの
料理が入った小さなケースを受け取って誠司は店を出る。
「ごちそうさん。」
「またきてちょうだ~い。」
「またどうぞ。」
夜になり、中村橋駅からは仕事帰りの人達がそれぞれの家路につく。誠司もそれに紛れるように歩き始めた。
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