第4話 ラノベでよくある女子高生・ミーツ・オッサン 1
お知らせ
前話に書き忘れていたダンジョン犯罪についての記載を追記しました、申し訳ありません。
2年のランクを下方修正しました。
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『みなさん今日は清心学院ダンジョン部の配信を見に来てくれて、ありがとうございましたー!』
『明日からは2つの班に分かれて二層を攻略していきまーす。』
『また見に来てくださいねー!さよなら~。』
「へぇ~、なかなかいいじゃん……」
トカゲを楽しんで、その後ぼちぼち飲み歩いた数日後3月末日の日曜日7時半、誠司は朝からジャージ姿で練馬支部に顔を出す。受付前の平日の6割程度の人出に「自由業になっても曜日に縛られてるんだなぁ」と思うが、それは当然だ。探索者だって家族がいる、非探索者の友人や、親しい人がいる、そうした人たちと予定を合わせようとしたら土日が都合に良いに決まっている。
それにこの時間が早いだけであってもう少しすれば学生や社会人と言ったエンジョイ勢が訪れるため全体として人がそれほど減っているわけでもない。
ダンジョンの中も外もボッチなオッサン生活を続けていた誠司は、割とそんなダメなことを考えながらいつもの受付で探索者カードを出す。
「おはようございます!明日から新人が配属されるらしいんですよ、これで私も一番下っ端じゃなくなりますよ!」
「そうなのか。」
「はい、先輩風ビュンビュン吹かせてやりますから、春一番も真っ青なぐらいに!はい、受付完了です。今日も一日がんばってください!」
カードを受け取ると誠司は「あいつ、新人の前で猪木のモノマネでもするつもりか」などと失礼なことを考えながらセキュリティーゲートを通り、更衣室へ向かう。
今日は更衣室に知り合いはいなかった、ただ日曜の8時前からいるヤツなぞ大体は顔見知りなので目が合えば一声かけて、手荷物カウンターから受け取った装備に着替えていく。
「そういやオッサン、『ボイジャー』そろそろなんじゃねぇ、なんか聞いてないか?」
「聞いてねぇなぁ、ただ日程的には今日明日ぐらいだと思うがな。」
「成功するといいよな。」
「そうだな。」
近くで着替えていた男が話しかけてきた、たしかコイツは最近Bランクになったはず、
蓮が帰ってきたら飲みにでも誘うかと心に留めて着替え終わった荷物を転送する、その足ではてさて今日はどこへ潜ろうかと考えながら入場ゲートへ向かっていった。
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清心学院高等部のダンジョン部1年3人と引率の2年2人が今日はパーティとして二層で活動していると後ろから声がかかる。
「ねぇ、君たちパーティ組まない?俺達Dランクなんだぜ。」
「そうそう、どこでもピックアップして連れて行ってあげるよ。」
「なんなら気持ちいい~天国までピックアップしてあげるからさぁ~」
初心者講習にて探索者同士の距離感というものを教わったが、それを無視しても普通にお近づきになりたい類ではないガラの悪い三人組の探索者がいた。
2年が1年の子を盾となるように移動し、追従するようにドローンが彼女たちの背中越しから不心得者を撮すように移動する。
「離れてください、それに今は撮影中です。」
「知ってる知ってる、清心学院ダンジョン部の子だろ?俺達ファンなんだよ、だからさパーティ組もうぜ。」
「そうそうきっと楽しいからさ~。」「仲良しなところ全世界に配信しようぜ。」
ヘラヘラした態度で近づいてくる3人に、女子高生たちは纏まりながら距離を取る。
「今はクラブ活動中です、クラブ活動中は緊急時を除いて事前の申請なく外部の方とのパーティ行動は慎むように言われています」
2年の一人の子が毅然とした態度で対応している最中に、もう一人が1年の子に合図をする。
「え~、そんな固いこと…逃げたぞ、追え!」
「ウサギ狩りか、楽しみだな。」「バニーちゃん達を優しく捕まえてあげないとな!」
「おまえの場合やらしくだろうが。」
一斉に5人は一塊になって逃げ出すと、3人組は馬鹿笑いを上げながら追いかけ始めた。
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一階の転送ゲートに誠司が姿を現す、今日はドロップ狙いにしてみたが獲物の出も良かったし、何より四十三層とはいえアイテムバッグがドロップしたのだ、美味しい臨時収入だ。
機嫌よく買い取りブースに向かおうとしていたところに、入場ゲート前で落ち着きなくジタバタしていた受付嬢が飛び込んできた。
「小山さん、イエローです!」
スマホの画面ではダンジョン部の子たちの鬼ごっこが開始されたところが写っている。それを見た誠司も表情を歪ませる。
「場所は、他には。」
「二層です、今の時間帯のロビーにD三人相手できる人なんてなかなかいませんよぉ。」
他というのは、他の探索者に依頼はしたかという意味だ。浅層ではあるがDランクチームに対して索敵、要救助者の保護、ダンジョン犯罪の現行犯の捕縛ないし討伐を確実に行える即応戦力を即興で揃えるというのなかなかに厳しい話だ。自衛隊も現場に遭遇したのであれば人道的観点からも対応が出来たのであろうが、こうした事態については動くことは難しい。
「行ってくる。」
誠司は下ろしていたネックマスクを釣り上げると、一層への渦へ飛び込んだ。
一~三層はなだらかな平原と森のエリアだ、二層のゲートまでの距離は約5キロを誠司は全力で駆け抜け二層の渦へ飛び込む。セーフルームとなっている小部屋を抜けたところで誠司は片膝をついて集中する。
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この世界においてスキルというものは確認されていない。だが熟達した探索者たちは己の身に何かが宿っていることを知っている。そうしたモノに各々で名前をつけて活用している、誠司が行ったのもそういうものだ。
誠司の脳裏にいくつもの光点がされはじめ、その内彼女達のものと思われる光点を確認した瞬間、その方向に向かって走り始めた。
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「いい、1年は洋子の後ろについていくことだけ考えて走って、絶対離れたらダメよ!」
「「はい!」」
殿を務める駒沢灯里は考える、本当は
「大丈夫、きっと配信見てる誰かが助けに来てくれるから諦めないで!」
「「はい!」」
洋子も後ろを気にしながら先頭を駆ける。1年の3人は息も上がってきている限界は近い。
「ほらもっと急がねぇと捕まっちまうぞ!」「それが望みなんじゃねぇの。」「最近の女子高生はドMかよ!」
「あっ」
「「咲希」」
明らかに弄ぶように追ってくる3人組に、ついに1年の一人の子が足をもつれさせて転んでしまった。他の子も引き摺られて足が止まってしまい、私と洋子は壁になるように立ちはだかり武器を構える。武器を持つ手が震えるが負けるものかと相手を睨みつけると眼の前に影が差す。気がつけば眼の前に影の塊が立っていた。
「救助に来た。あとあまりオッサンを走らせるな、疲れるだろ。」
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誠司はソナー頼りに森の中を駆け抜けていく、相手の印象としてはこなれている感じだ。多分こういうことを何度もやっているのだろう、うまく追い詰めている。そんなことを考えながら走り続け木々の隙間に対象が見えた瞬間、誠司は己の内に刻まれた何かを開放する。
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手も声も届かぬ距離を零にして、全身に影を纏い少女たちの前に立つ。
「救助に来た。あとあまりオッサンを走らせるな、疲れるだろ。」
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人物紹介
練馬清心学院ダンジョン部(4話 3月時点)
・2年生
・1年生
清心学院ダンジョン部では1年生のダンジョン探索は禁じられており2年生(正確には1年生の春休み)から可能となる。またダンジョン部として活動範囲は20層までとなっており、21層以降の探索は禁じられている。
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