第17話 オッサンと黄金週間
5月に入り世間一般ではGWと呼ばれる期間ではあるが、自由業たる探索者たちには全く関係ない話である。なんせその気になれば毎日がサンデーでもオッケーなのだ。
そんな中、誠司は今日、同業者と一緒に飲み会を開いていた。
「それでは、『ボイジャー』のAランク昇格を祝して「「乾杯!」」」
すでに仲間内だけの飲み会や周りを誘った盛大な祝賀会は済ませている。今日は友人同士の気楽な会だ。メンバーは、勿論本日の主役のAランクチーム『ボイジャー』
「いやー、長かったぜ!」
「蓮の所も色々あったからなぁ。」
乾杯の合図とともにジョッキの中身が一気に無くなり蓮は言葉を吐き出すが、荒鷹もこれまでの経緯を知っているだけに同意する。
「すまん、生大もう3つ追加」
オッサンは店員を呼び止めて、追加の注文をする。
今日は飲み会はスポーツバー、しかもメニューや雰囲気がアメリカンな感じの、なんなら店員のお姉さん達の格好も非常にアメリカンだ。もちろん変なサービスはしていない健全なお店だ。
ただやはり男はそういうのが好きなので、どこかで見たことある連中が鼻を伸ばしている姿がチラホラとある。
新しく届いたジョッキを受け取って、フードメニューを注文してく、さすがアメリカンどこを見ても肉肉これでもかと肉そしてフライだ、思い思いのメニューを注文し、蓮が去っていく店員の尻を眺めている。
「それで蓮のところ、これからどうすんだ。」
「休暇は終わって再始動はしてるぜ、ただしばらくは八十一層からの慣らしと、戦略構築やら装備更新やら諸々で、先に行くには時間がかかりそうだ。そっちこそどうなんだよ。」
荒鷹の質問に蓮が答える。蓮としても同じAランクとして先を行く荒鷹のチームが気になる。
「もう少しかかる感じだな、今年中に一度はアタックしてみたいが様子を見ながらってところだ。」
「急がずのんびりやれよ、怪我したら元も子もない。」
「ソロのお前に言われたくねぇ。」
相変わらずの誠司の物言いに、荒鷹も気にせず返す。そんなことを話していると頼んでいたメニューが届き始める。
「よっしゃ、とりあえず食おうぜ。」
蓮の言葉で三人とも料理に手を付け始め、酒を飲み、会話をする、時には店員にチップを上げたり写真を撮ったりする。気の置けない友人たちと気の置けない時間を共に楽しむ。
「そういやよう、オッサン。最近JKと付き合ってるってマジ?」
蓮から飛び出したびっくり発言に、誠司はむせる。
「え、マジで?お前、変なことしてないよな。」
「してねぇよ、つかどっからそんなデマが流れてきてんだ。」
荒鷹も普段の誠司からは想像できない事態に驚いている。
「中村橋の商店街で制服姿のJKを連れ歩いてるお前を見たとか、駅前でお前が普段しない格好で会ってたとか」
メチャクチャ地元だった、練馬近辺は探索者の行動範囲なので見つかる可能性は高い、そして実際見られていた。
誠司は誤解を解くべく、経緯を二人に説明する。
「なんだよ、あまりのモテなさに金にあかして変なこと始めたかと思ったぜ。」
「そこまでするぐらいなら、もっと前になんとかしとるわ。」
「そんで、その子達どうすんの?」
「なんとかしてやりたい気持ちはあるんだが、なるべく俺の手をかけないで出来ねぇかと考え中…」
「相変わらずだなぁ、いいやついないのか?」
蓮や荒鷹としても心配ではあるものの自分のチームが優先だ、ましてや新人はその子達だけではない、優遇させるわけにもいかない。
「相手が女子高生だと聞いて飛びついてくるやつなんか、紹介できるわけ無いだろ。」
「まあな。」
「鍛えるだけならCランク辺りでちょどいい女の子チームがいればいいんだけど、なんかそれも違う気がしてなぁ。」
「どういうことだ?」
探索は部活動の一貫でもとりあえずやる気はありそう、そのうえで活動を配信や動画でアップしてそちらの活動も重要視していそう等の状況を話す。
「そうなるとCランク中位以上のソロで、信用が置けて、比較的時間の自由がきいて、スケジュールの調整がしやすいヤツ、チームはどうしてもチームの事情を優先しないとダメだから。」
誠司はジョッキを傾けつつ条件を上げていく。
「そんな都合のいいやつが…いるな。」
「俺も一人思いつた。」
と二人揃って、誠司の顔を見つめる。
「そうなるんだよなぁ。」と誠司は頭を抱える。
「まあ、向こうがいいというまで付き合って、しばらく考えてみるわ。」
とりあえず先送りである。
「あとな、動画撮影とか配信ってどうなんよ。」
オッサンは考えたこともなかったので二人に聞いてみる。
「どう、とは?」
「使えんのか、使えねぇんか。」
二人は顔を見合わせてはっきり言う。
「「全く使えねぇ」」
蓮の意見:
「5年前ぐらいか?ドローンがダンジョン内で使える用になった時にフォーメーションや戦闘パターンを解析するためって流行ったことあるじゃん、アレをやってみようと使ってみたことあるんだけど、ドローンの撮影範囲を認識しながらとか、ドローンの位置で被らねぇようにとか意識したらギクシャクしちまってさ、使えねぇってなって速攻売っぱらた覚えがあるわ。
今は良くなってんのかも知んねぇけど、お互いが把握できてんだから今更入れる必要感じねぇ。」
荒鷹の意見:
「そもそもよ、今ダンジョン内で撮影機材って言ったらスマホ、アクションカメラ、ドローンの組み合わせだろ?性能が足りて無いんだよ。カメラ性能ばかり言われてるが、衝撃を始めとした防御性能は?過酷な環境への対応は?熱や火に対しては?酸や腐食に対しては?
他にも色々あるが俺達の求める性能要求を満たさないものを頭の上でブンブン飛び回らせて、それを気にしながら戦うなんてナンセンスだろ。」
二人の意見は配信や動画投稿という行為そのものを否定するものではない。
二人の探索者としての意見と、配信系の探索者の違いは、単に優先度の違いでしかない。
当然安全マージンを取ってアタックをする、だが動画の映えや構成、リスナーのコメントへの反応、一手間違えば命がないかもしれないという状況でそういったモノへリソースを割きたくない、そんな余裕があるならもっと先へ進みたいというのが練馬のトップを走る探索者の本音だ。
「ただまあ、何々攻略動画みたいなのあるじゃん、最初のうちはアレで型にハメるのは良いと思うぜ。それで安全にやらせて、その間にバリエーションを考えさせてな。」
蓮の意見に、誠司もなるほどと思う。それならば普段の練習にも組み込みやすいだろう。
「誠司がやってることに一日付き合わせてみればいいんじゃないか?戦闘だけじゃなくてさ、お前色々引き出しあるし。」
荒鷹の言葉に色々考えることがあって先生って大変なんだなぁと、誠司は天堂の苦労をしみじみ感じていた。
そんなこんな話しながら酒は進む、こっちに気がついた他の探索者が蓮に一杯奢ったり、奢られたり、チップを弾んでた蓮が店員のオネェちゃんにキスされたり、それを見た
それから暫くしてショットグラス片手にチキンを口に放り込んでた蓮が言う。
「何だかんだ文句言ったけど、わかんねぇなら一発やってみるも手じゃね?」
「何を?」
「動画作成」
「誰が?」
「オレ達三人が」
「「マジで?」」
「マジで」
「…一度潜ると期間が空くし、その間の気分転換にはいいか。」
荒鷹は特に問題ないと言うが、誠司が難色を示す。
「オレは動画とか映りたくねぇんだけど。」
「じゃあオッサンはカメラマンやれよ。」
誠司も、まあそれなら良いかと、三人でたまになにかやるのも楽しそうだと承諾する。
「そんじゃ、話もまとまったことだし、二軒目行こうぜ二軒目!」
探索者たちが潜るのはダンジョンだけではない、夜の街にも深くもっと深く潜っていく。
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モデルになったお店は言わずと知れたHO●TERSです、実際には練馬に店舗はありませんが、作中では似たコンセプトの店が出店している設定です。
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