第19話 黒と銀の練馬とオッサン
馴染の工房に向かって歩いている最中にも色々雑談をする。
「オッサン、武器のメンテってどれくらいかかるの?」
「状態によるが、大体2~3日、状態が悪かったら一週間から一月なんてザラにある。まあ下手すりゃ買い直しだが、そうならないように定期メンテは必要だ。」
「意外と時間がかかるものなんですね。」
「職人は幾つも仕事を抱えてるからな、そんなもんだ。」
「その間、どうするの?お休み?」
「2~3日ならそれでもいいが、大概予備の武器を使ったりする。」
「そんなに一杯持てないよ~」
「まあ、Dランク層(21~40)に上がるぐらいまでは、メインとサブを持っておけば困らないと思うぞ。」
「サブ武器ってなにがいいですかー。」
「お前ら剣を習ってるからな、順当に行けばショートソード、剣鉈、ククリ、破壊力ならメイス、手斧その辺りだな。メイスはメインにしても良い。」
「メイスって可愛くない~」「そうだよ~」
「命を預けるものなんだから、そんなことで嫌ってやるなよ。」
可愛いメイスってなんだ?魔法少女のアレか?それで撲殺するのもどうかと誠司は思う。
しかし10年間、曜日と無関係な生活をして、家にテレビもない誠司はニチ●サバトル系魔法少女アニメのコラボ商品で変身ステッキ型メイス(重量5kg)が出ていることを知らなかった。
そんな話をしていれば目的地へ着く、一階というか地階は駐車場になっており、階段を登って二階が工房になっている。階段にはやたらと真っ黒な看板と木彫りの練馬大根が掲げられている。
「この看板、意味があるんですか?」
「一応工房名が書いてあるらしいぞ」
咲希の疑問に、誠司はそう答えて階段を登って、工房の扉を開ける。
「いらっさい。お、誠ちゃんじゃん。どうしたの一杯引き連れて、みんな彼女?」
「ちげぇ、武器のメンテ頼みに来たんだよ。後ろのは世話することになった奴らだ。」
出迎えたのはこの工房主の嫁さんで、誠司は持ち出し申請書類と、探索者カードを渡しながら答える。
「あんたー!誠ちゃん来たよー!」
「わかったー!すぐ行く!」
裏の方から男の声が聞こえて姿を現す、黒いとても黒いそしてハゲだ、きっと頭の天辺からつま先まで真っ黒に違いない、●ンコの先は嫁さんだけが知っていれば良い、そんな男が出てきた。
この男こそ鍛冶工房『チゲル
「よう、誠司、そろそろ来る頃だと思ったよ。今日は一杯引き連れてんじゃん、いくら俺が名鍛冶師だからって、そっちの剣までメンテ出来ないぜ。」
千滋は試される大地の大空の下、愛の思い出を語ってそうな美声で、セクハラトークをカマしてくる。
「ちげぇって、後ろのはただの後輩分だ。メンテはあってるけどな。」
担いでいた袋をカウンターに置く、千滋は袋から武器を出して封印に触れる。
封印は持ち出し先の魔力パターンが登録されており、幾つかの例外を除き、そこで無いと解除できないようになっており、今回の持ち出し先である千滋は封印を解いていく。
「勉強のために連れてきたんだ、ちょっとコイツラに持たせてやってくれ。」
「それはいいが、嬢ちゃんたちに持てるか?」
「両手で持たせりゃなんとかいけるだろ。」
封印を解いた武器はカウンターに置かれる、置かれた武器は大振りの剣鉈二振りに直剣一振り。剣鉈はダマスカスのように刃紋が幾重にも波打っているのに対して、直剣は曇り一つなく光を反射している。
部員達はカウンターにかぶりついて誠司の武器を見ている。
「ほえ~、きれ~。」「すごい」
「持っていいの?」
「いいぞ、ただし必ず両手で持つこと、振り回さないこと、手渡しせずに一旦カウンターに置くこと。」
「「「は~い」」」
誠司は注意事項だけ伝えて、とりあえずやらせてみることにした。
「重っ!ちょっとこれ持ち上がんないよ!」
「オッサン、こんなんホントに持てんの!?」
絵美が早速、直剣を持ち上げようとしてプルプルしている。斥候職の洋子は剣鉈に興味があったのか両手でなんとか持っている。
他の部員達が交代で持ってみたりしているがやはり重いようだった。
「オッサン、これ振り回せるの?」
「当たり前だ、チゲルちょっと振っていいか?」
「おお、好きにしろ」
洋子の疑問に、千滋に許可を取り部員達を下げさせて、直剣を片手、次に両手で軽く剣を振り、剣鉈に持ち替えて順手、逆手と振って見せる。
「探索者さん達はこんなの振り回してるんですか…」
「程度はあるが、ランクが上がれば上がるほど重くなる傾向はある、扱う力があれば基本重いほうが有利だからな。」
咲希は自分たちもこんな物を持てるようになるのかと想像できなかったが、そこまで先のことを気にする必要はないと誠司は言う。
「こんなに重くて何で出来てるんですか。」
「そいつは企業秘密ってやつだ。」
部員の疑問に千滋はニヤリとしながら答える。
千滋はカウンターに戻された武器を手に取り状態を一つ一つ確かめていく。
「相変わらず重いな。」
「アンタが作ったんだろ。」
「お前のオーダーだろうが。」
「まあ、そんなに酷使してないし3日ってとこだな。なんかオーダーあるか?」
「今のままで頼む。」
互いに言いたいことを言い合いながら流れるように決まった。
「それで?そっちの嬢ちゃん等はなんか見てくか?」
「コイツラにアンタの打った武器はまだ早いと思うけどな。」
「若いうちから良いもん見て目を養うことは必要だぜ。」
武器の目利きに関しては千滋のほうが何枚も上手だ、誠司は言い負かされて部員達を好きにさせた。
部員達も工房は珍しいのか千滋や奥さんにアレコレ聞きながら見ている。
「そういや、お前らナイフ持ってるのか?」
誠司はふと気になったことを聞いてみる。3年は頷いて、2年は首をふる。
「私達は先輩のお下がりをいただきましたから。」
咲希が言ってくるが、彼女たちの感じからするとロクに手入れができてなさそうだ。
「チゲル、手頃なナイフあるか?」
「あるぜ、弟子の打ったやつだが売り物としちゃ問題ない。」
「じゃあ、見せてやってくれ。お前ら幾つか握ってみて気に入ったやつを選べよ。」
誠司の武器を裏に持っていった千滋がカウンターの上にナイフを並べていきながら工房の方へ声を掛ける。
「ありすー!ちょっと来い!」
「なんすかー!」
「お前にお客さんだ!」
「すぐ行きます!」
裏からバタバタと音がして、頭にバンダナを巻き銀色の髪をまとめ上げ、顔に煤が付いた女性が出てくる。
「コイツがウチの弟子の谷内ありすだ、こっちの嬢ちゃん方がお前の客だ。しっかり見てやれよ」
「はい!わかりました!」
ありすが部員達に色々握らせながら説明している、部員達も今までそういうことを聞いたことがなかったのか興味深げにナイフを手に取ったりしている、その姿を千滋と誠司が眺めていた。
「弟子なんかいたんだな。」
「当たり前だろ、誠司に関わることがなかっただけだ。お前にだっているじゃねぇか。」
「あん?」
「あの子達だよ、ここまでやっといて弟子じゃねぇとは言わせんぞ。」
千滋は誠司に自分の得物を触らせて、ナイフまで送ったのだ、責任持って面倒見ろと言ってきた。
「…わかってるよ」
改めて人に言われると、腹に石を飲み込んだような重さを感じる。
「ま、サービスでシャープナーを何個か付けてやるから、
「アイツラがここの数打ちでも似合うようにするのが俺の役目か…」
誠司のこれからの苦労が手に取るようにわかるのだろう、千滋は誠司に発破をかける。この店の数打ちでも初心者装備の何倍も質が良く、その分お値段もする。当然それに見合う腕も必要になってくる。誠司にとって考えることは多そうだ。
そうこうしているうちに部員達のお気に入りが決まったらしい。ありすが伝票を千滋に渡し、千滋が誠司に見せてくる。ナイフとしては妥当な値段だ、むしろこの店で売り物にしていいというのだから安くも感じる。
誠司はアプリで支払い、部員に声を掛ける。
「お前ら一旦ナイフは全部回収するぞ、自分のをわかるようにしておけ。」
「「「え~」」」
「あのな、昼ご飯食べに出た娘が土産にナイフ買ってきたら親御さんが驚くだろ」
すると奥さんがタグを取り出して、スルスルとナイフにつけていく。あとは自分で名前を書けば完了だ。
名前が書けたものから、誠司はナイフを回収していく。
「それじゃ、邪魔したな。」
「おう、またな。嬢ちゃんたちもいつでも来な。」
「毎度ありがとうございました~。」
誠司達は、千滋達に見送られて工房を出る。日はすでに西に傾いている、今日はこのまま駅で解散としよう。そう思って歩き始める。
「ふふ、男の人から刃物を送られたなんて初めてです。」
相変わらず誠司の隣に来た真紀恵が嬉しそうに言う、誠司には何が嬉しいのかわからない。
「いざという時はこれでってことですよね。」
「そうはならねぇようにする為に、買ったんだよ。」
「では、私達をちゃんと守ってくださいね。」
真紀恵の笑顔に誠司は思った、「
########################
人物紹介
・
・
●鍛冶工房「チゲル
練馬支部とは提携済みで各種補助制度あり。ちなみに今回は
こんなに女子高生メインの話になるはずじゃなかったんだけどなぁ…、しかも適当に作ったキャラが多い、多すぎるのです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます