第15話 オッサン・イン・ザ・女子校 2

 部員たちは誠司を連れたってぞろぞろと移動する。


 部室につくが防具を外すからと誠司は扉の脇でしばらく待っていると扉が開いて中に案内される。部屋の中は案外殺風景で大きな会議机に囲うようにパイプ椅子が置かれ、今は部員が座っている。部屋の隅には武器防具をしまう棚が並べれられている。誠司は椅子を一つとって腰掛ける。


「はい、なにか聞きたい事がある人は質問してください。」


 灯里の言葉に部員たちは一斉に話しかける、さすがは女子高生だ、パワーが違う。


「はーい、彼女はいますか~?」

「いねぇよ。」

「年収いくらですか?」

「言えるか、まあまあ税金は支払ってる。」

「好みの女性のタイプは?」

「抱き心地の良さそうな女性。」

「探索者の前は何やってましたか?」

「サラリーマン。」

「どこに住んでます~?」

「この近く。」

「えっ、マジ!?」

「ああ、サラリーマン時代から中村橋に住んでるが、探索者になってから、すぐ近くに引っ越した。」

「え~、じゃあ今度遊びに行っていい?」

「オレがとっ捕まるから、ダメだ。」



「あの、スキルについて教えて下さい。」


 アイスブレイクは終わって、いよいよ本題にはいる。


「難しいな、これは俺の経験や、他の探索者の話を聞いて、自分なりにこうじゃないかと考えているという前提で聞いてくれ。」


 ステータスやスキルは確認されていない、だが探索者はダンジョンで魔物を倒し、活動しすることで強くなること、この辺りはダンジョン部だけあって彼女たちも把握済みだ。そしてスキルデータベースなるものは存在しており、何ならダンジョンアプリからも但し書き付きだが参照できる。


探索者オレたちがスキルだと言っているのはダンジョン内で得た経験が純化されたものだと考えている。」


「純化…ですか。」


「そうだな、チーム内で斥候スカウトを担当するやつ手を上げてくれ」


 何人かの部員の手が上がる。


「そうすると今手が上げた奴らは単独行動や索敵といった経験積むことから、そういった関連のスキルを得ることが多い、勿論残ったメンバーも警戒はするから何かしらの経験は得ていると思うが。」


「つまり目的のスキルを得たければ、得られるまでその行動を繰り返すのがよいと。」


「それが難しくてな、同じ行動を繰り返しても狙ったスキルが得られるとは限らんし、戦闘中や、キャンプで煮炊きしている最中に、全然関係ないスキルを得ることもある。

 ただやっぱり何かしら自分がダンジョン内とってきた行動や得た経験に関連したモノが多い気がするよ。だからとにかく色々経験したほうが良い、戦うだけじゃなく採取だったり、採掘だったり、なんなら釣りだってキャンプだってしたっていい。

 ダンジョン内で得た様々な経験をごちゃ混ぜにして、ある日急に経験しきてたものが純粋な一つとなってポコンと浮き上がってくる、それがスキルなんじゃないかとオレは考えてる。」


 部員たちもなんとなくそんなものかと思うが、でもそれだけなのかと疑問も残る。


「じゃあ経験していないことは、スキルとして現れないですか?」


「必ずしもそうともいい切れなくて、本当に全く関係ないスキルを得ることがある。代表的なのは魔術士マジシャンと呼ばれる役割ロール関連のスキルだ。魔術なんて誰も知らないからな。

 知り合いにも使えるヤツがいるが、本当にある日急に思いついたらしい。これがいわゆる才能と呼ばれるやつかもしれん。

 逆に経験がスキルに生かされることが多い役割ロールとして歩荷ポーターなんかは割と有名だ、荷運びを常に行っているからアイテムバッグやポーチの性能向上をさせる関連のスキルを持っていることが多い。」


「オジサンはどんなスキル持ってるんですか?」


「オレは基本ソロだからな、斥候のような行動を取ることが多いからそっち関連のスキルが多い、無論それだけじゃないが。あとスキル関連は探索者にとって奥の手の一つだから気軽に聞いたり吹聴したりするなよ。」


「すいません、気をつけます。」


「配信で使ってたオジサンのスキルはなんですか?」


「それぐらいなら見せてやるが、外で絶対言いふらすなよ。」


 誠司はそう言うと立ち上がり実演して見せる。


「<影纏シェイド>はこんな感じに影に包まれるスキルだ。特に攻撃力も防御力も無い。この前は配信してたろ?映りたくなかったから使った。」


 誠司の腕が影に包まれる、腕を振ってみても影が離れる様子はない。何人かの部員が腕に触れて驚いているが、オッサンの腕に女子高生が集まって触れている構図はあまりよろしくない。

 スキルを解除して部員を席につかせる。


「<妨声ノイズ>は対象に、もしくは対象以外に声が聞こえずノイズとして聞こえるスキルだ」


 試しに、部員たちを対象にして左右に分けて体験させてみる。


「ホントだー、オジサンが何言ってるか聞こえないー」

「こっちは聞こえるよー。」「おもしろーい」


「最後、コイツは結構有名で使えることを公言しているヤツもいるが<縮地ショートジャンプ>だな。」


 前に立っていた誠司の姿が消えて、部室の後ろへ現れる。


「まあ、コイツは説明不要だろ。」


「動画のやってみたとか見たことあります。眼の前で見るとやっぱりすごいですね。」


「以前使ったスキルは以上だ。他になんかあるか?」


 誠司は普通に歩いて元の席に戻る。


「ダンジョン配信はどう思いますかー?」


「別にいいんじゃないか?モチベーションを保つ方法は人それぞれだ。それでやる気が出るなら良いことだ。

 それに前みたいなことが起こっても助けの手が届くようになるのなら、悪くないと思うようになった。」


 あれからダンジョン部が変わったように、誠司も少しだけ変わったのかもしれない。


「仲の良い探索者はいますか?」


「たまに飲みに行くやつなら何人かいる。探索者なんて基本自由業だからそれぞれの予定が合えばって感じだが、練馬の有名どころだと最近Aランクに上がった蓮は同期だし飲みに行くぞ。」


「『ボイジャー』の蓮さんですか~!」「ウソ~」「すごーい」


 つい最近、練馬支部で現役で二組目のAランクとなった『ボイジャー』は今一番ホットな話題だ、それだけに意外なところから出てきたことに部員も大盛り上がりしている。


「でもオジサン、どう見ても蓮さんと年離れてるよね。」


「初めて会ったのがアイツが18で、オレが30の時だし。まあ、そん時からの付き合いだ。」


「蓮さんはAランクで、オッサンはCランクかぁ、ずいぶん離されちゃったね。」


「ソロだし、気楽な身分で丁度いいさ。オレには今ぐらいが身の丈にあっている。」


 そういえばと誠司は幾つか訓練用の備品を壊したことを思い出して、灯里に声を掛ける。


「ああ、そうだ。明日、顧問の先生にあって備品の弁償の話をしたいから許可を取れるか?」


「はい、一度許可を受けてるので日付を変更した書類を出せば問題ないかと。」


 誠司は明日の手続きを頼むと、灯里は学校支給のタブレットを操作して手続きをする、必要な申請はこれを通して行うようになっている。


 それから雑談とも取れるような質問が続き、部活の終わりの時間を迎える。


「それでは着替えるので、小山さんは部屋の外に出て待っててもらえますか。」


「わかった、というか1人でも帰れるんだが。」


「駄目でーす、オジサン一人で女子校内を歩かせるとか危険が危ないんだから!」


 灯里に外で待ってろと追い出され、他の部員からも大人しくしてろ言われると、誠司としても通行証があるとはいえ、ジャージ姿の不審者であることには変わりないかと思い大人しく待つことにする。


 部室の中から女子高生のキャイキャイとした声が聞こえるのを無視して待つこと15分ほど、部員たちが部室から出てくる。勿論制服姿ブレザーで、オッサンのジャージ仲間はいなくなった。

 校門まで部員たちの後をついていく誠司だが、これはこれで絵面は悪そうだと思いながら歩く、最後に通行証を受付に返却して校門を出る。外には部員たちが待っていた。


「小山さん、本日はご指導いただきありがとうございました。」

「「「ありがとうございました。」」」


「おう、気にするな。強くなれよ。」


 部員たちは礼をするが、その後誰一人として立ち去ろうとしない、不思議に思いながらも誠司が歩き始めると全員後ろをついてくる、朝はわたった歩道橋を通り過ぎ千川通りから中杉通りに右に曲がったところで振り返っても全員いた。


「お前ら絶対こっちじゃないだろ。」

「いつも部長たちばっか奢ってもらってずるいです!」

「そうですよ、今日は私達にもなにか奢ってください!」


 まあ、そんな感じはしていた。後ろの方で部長の灯里は申し訳無さそうにしている。


「それでもいいが、今日行くところはオシャレとかかけ離れたところだぞ。」


 そうはいうが、オッサンの行く店は大概はオシャレとはかけ離れたところだ。


「え~オシャレなとこがいい~」「どこですか~」

「すぐそこだ」


 本当にすぐそこだった、歩いて一分しないうちに着いた。食事処 大やぶ、いわゆる町そばとよばれるタイプの店だ。女子高生たちもここに店があるのも知らない、知っていてもおそらく入ったことは無いだろう、反応は様々だ。

「おお~」とレトロな感じ感心する子もいれば、ちょっと引いてる感じも子もいる。


「ちゃんと予定を入れてくれればそれなりに考えたけどな、今日はここで勘弁してくれ。」


 それならばとみんな納得したところで店内に入る、店内もザ・町そばという内装で掃除は行き届いていて不潔な感じはしない。


「いらっしゃい、あら大勢ねぇ。空いてるところにどうぞ。」


 この店の婆さんが出迎えてくれる、この店も古くから夫婦でやってきた店で手頃な価格でメニューが色々あるのが良い。


 それぞれが席についてメニューとにらめっこする。


「おじさーん、餃子頼んで良いですかー?」

「おう、いいぞ」

「焼き肉は~?」

「好きにしろ」


 なんだかんだでテーブルごとにワイワイと楽しそうだ。


「注文は決まったかい。」


「オレは大もりそばと肉野菜炒め。」

「タンメンと餃子をください。」

「オムライスおねがいしま~す。」


 婆さんはオレと一緒のテーブルの城西真紀恵しろにし まきえ神奈川絵美かながわ えみから注文を聞くと他のテーブルを聞いて回る。

 他のテーブルからは「チャーシューメン」だの「カツカレー」だの聞こえてくる。


「学校のこんな近くにこんなお店があるなんて知りませんでした。」

「ホントだよね~。」


「いつもは電車通学か?だったらしょうがないさ。」


 二人とも頷く、最短経路を通ると歩道橋になり角度的に視覚に入らないし、帰りにちょっとバーガーショップで寄ったとしても、こっちを見返すことはないだろう。


「こういう店は来たこと無いか?」


「あんまり憶えはないです。お蕎麦屋さんならありますけど。」


「子供の頃、お母さんが旅行に行って、お父さんと二人きりだった時に行ったラーメン屋さんがこんな感じだったよ。」


 誠司は真紀恵のいうお蕎麦屋さんは本格蕎麦ぽい、絵美の方は町中華だなと予想する。


「おまたせしましたー。」


 爺さんと婆さんが二人して料理を運んでくる。


「お~、凄い昭和レトロだよ~。お味噌汁が付いてるよ、全く映えないよ~。」


 今どきのオムライスとは違う家庭で食べるようなオムライスに、絵美は何故か興奮気味に写真を撮ってる。ついでにオレ達の料理の写真も撮ってる。

 他のテーブルにも料理が運ばれてるが、なんだかんだ盛り上がっているようで安心する。


「じゃあ、食うか。」


 割り箸を取って食べ始める。うん、まあ普通だな、可もなく不可もなく。時折会話を挟みながら食べ進める。途中絵美が肉野菜を物欲しそうにしてたので手を付けてない方を向けてやると喜んで食べ始めた。それを真紀恵は不思議そうに見ている。


「どうした、お前も食うか?」


「あ、いえ。どうして今日この店をえらんだのかなと。」


「ん、近かったからだな。」


「そうなんですか?普段はどんな感じの生活を?」


「普段もこんなもんだぞ、朝起きてダンジョン潜って、昼頃に上がってきては、あとは適当にブラブラしながら酒飲んで、今日はお前らが一緒だから自重してるが。」


「派手に飲み歩いたりしないんですか。」


「まあ、祝い事があればな。例えばランクアップとか。そういうのは代々木あたりの連中は好きそうだ、完全なイメージだが。

 それに装備のメンテもそれなりに掛かるし遊んでばかりはおれんよ。」


「おー、装備ってどんなの使ってるの?」


 絵美も喰い付いてくる。


「近々装備のメンテに出すからついてくるか?」


 誠司の提案に二人とも頷く。


「じゃあ、ちゃんと部活内で話を通しておけよ。」


「はい。」「は~い」


 まあ、その時はまた全員連れ歩くことになるだろうなと想像していた。


 それからも何だかんだ話していたが、18時を回ると仕事帰りの客がぼちぼちと入ってくる。そろそろ御暇するべきかと腰を上げる。


「あの子達の勘定もまとめて頼む。」


「はいはい。お兄さん部活の先生かい。」

「まあ、似たようなもんだ。」


 婆さんの質問に、誠司はなんとも言えず曖昧に答え勘定を済ませて、全員で外に出る。


「「「ごちそうさまでしたー」」」

「おう、気をつけて帰れよ」


 女子高生達は駅の方に向かい、オッサンはそれに背を向けて歩き出した。

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