第14話 オッサン・イン・ザ・女子校 1
4月も半ば、誠司はいつもの如く昼間っから仕事上がりの一杯をやっているとスマホに通知が表示される。
相手はいつぞやの女子高生、
翌日、いつも通りに
中村橋駅は、わかりやすく言ってしまえばエロ同人で一番良く見る駅の背景のモデルとなっている駅で、ここから一番近い学校は中高一貫女子校だ。そんなところで駅前のベンチに座り女子高生を待っていたら速攻でしょっぴかれかねないが、相手から指定されたので仕方ない。
スマホをポチポチいじっていると声がかかる。
「小山さん、お待たせしました。」
「オッサン、おまたせー。」
「お久しぶりです。」
「ああ」
「それでご相談なのですが…。」
灯里が話し始めようとするが、ここで長話するわけにもいかない。オッサンの手が後ろに回ってしまうことになる。幸いなことにすぐ近くに交番があるためポリスメンを呼ばれるには絶好の場所だ。
「とりあえず移動するか。」
とは言ったものの、オッサンはこのあたりで小洒落たカフェなど、とんと存じ上げない。知っているのは肉か酒かラーメンぐらいだ。まさか角打ちに案内するわけにも行くまい。ぶらぶらと商店街を歩くと、イートインスペースのある和菓子屋を見つけたのでそこに入る。
「まあ、好きなもん頼んでくれ。」
「…桜餅とみたらし団子とセットのお茶で。」
「わらび餅とどら焼きのセット。」
「季節のフルーツあんみつをおねがいします。」
注文を取りに来た店員にアレコレ悩みながら注文する3人に、オッサンはついていけない。とりあえず目についた豆大福と羊羹のセットを頼む。
注文がした品が届いて、ひとしきり甘味を堪能したら誠司は話をふる。
「で、相談したいことってのは?」
「あの、ダンジョン部のコーチを引き受けてほしいのです。」
灯里の相談事に、誠司の頭の中に大きな?が浮かぶ。
「俺が教えられることは無いと思うぞ、武術なんて習ったこと無いし。」
「そうなんですか?あと、影をまとったり、声が録音できなかったのは?」
「あれか、説明はできるが、教えることが出来ないな。」
どうしても断りたいわけでも無いが、さりとて教えるべきことも無い状況に誠司もはっきりとした返事を返せない。
「とにかくオッサン一回お試しで受けてみてくれないかな。それでアタシらもオッサンも判断できると思うし。」
「わかった。」
洋子のとりあえずな意見に、落とし所かと思い誠司も了承する。
「で、いつにするんだ?」
「外部の方をいれるのに説明や手続きが必要なので、早くて来週ぐらいになると思うのですが…。」
「決まったら連絡をくれ、日程は基本調整できる。」
「わかりました。」
「……」
大枠が決まったところで、先程から一言も喋っておらず誠司をじっと見ている咲希に声を掛ける。
「俺がどうかしたか?」
「…なんでもないです。」
なんでもないらしいので、誠司もそれ以上気にしないことにする。
「もっと食うか?」
「うん。」
とりあえず今日は3人にたらふく食わせることにした。
************************
1週間後の再び中村橋駅、誠司はベンチに座りスマホをポチポチやっている。
「小山さん、お待たせしました。」
「オッサン、おまたせー。」
灯里と洋子の二人が迎えに来る、今日はジャージ姿だ。誠司にしては珍しいジャージ仲間が増えた。別にどうということはないが。
駅から連れ立って歩き、千川通りの歩道橋をわたっていく。
「なあ。」
「はい。」
「いつも思うんだが歩道橋を渡るのと、下の信号を2回待つのとどっちが早いんだ?」
「正直、あまり変わらないと思いますよ。一応校則上は歩道橋を利用するようになっていますが。」
「角のお店に用があるときもあるしね!」
歩道橋の反対の角には世界一有名なバーガーチェーンが入っている。何故先週思いつかなかったのか、普段食べないから頭からスッポ抜けていたんだろう。まあ、彼女たちも食べ慣れてるだろうから先週はあの店で良かったと思っておこう。
そのまま歩いて見ることはあっても入ることのなかった清心学院の校門をくぐる。灯里は受付の
「すみません、身分証明書の提出をお願いします。」
誠司は探索者カードを出すが、守衛は困った顔をする。
「こちらではなく、運転免許証などがあれば…。」
「ああ、すまん。」
普段からは探索者カードしか使ってないし、職質を受けてもそちらで通るから誠司はすっかり忘れていた。
改めて運転免許証を出して渡すと、守衛は書類をチェックしていき通行証といっしょに返却される。
「校内を歩く時は、必ず通行証を首から下げてください。」
誠司は言われるがままに、通行証を首に下げると灯里が「ついてきてください。」と促したので、大人しくついて行く。
「学校に入るなんて何年ぶりだ。」
「オッサン、あんまりキョロキョロしないでよ。」
誠司は懐かしさにあたり眺めるが洋子に注意される。確かに女子校内を歩くオッサンの絵面としてはよろしく無いと思い前だけ見ることした。
3人は校舎を抜けてグラウンドへ出るとグラウンドの端のほうで木剣や槍を振るっている子達の元へ向かう。
「みんな、一旦手を止めて集まってください。
私達10人がダンジョン部の部員になります。小山さん挨拶をお願いします。」
「練馬支部所属Cランクの小山誠司だ。小山でもオッサンでも好きに呼んでくれ。
まあ、どれだけ役に立つかわからんがよろしく頼む。」
結局ダンジョン部の面々は全員残ることを選んだ。灯里や部員同士相談し、これから先どうしていきたいかも話し合った結果だ。灯里はその日からみんなの顔つきがちょっと変わったかなと思った。
そんな子たちを前に誠司は探索者カードを見せながら相変わらずの感じの挨拶をする。
「オジサン、おひさー。」
「おう、おひさ。普段はどんな活動してるんだ?」
ここで突っ立っていても始まらないので、誠司は灯里に普段の練習内容を確認する。
「普段はアップを行ってから、体力づくりの持久走、その後素振り、打ち合いを行って、残り時間は動画を見ながら研究という感じです。ダンジョンは土日のどちらかに潜ります。」
「素振りとかは誰に教わってる?」
「月一程度で剣と槍の先生に来て見ていただいて、普段は撮って頂いた動画を参考にしながらという感じです。来ていただくのも先立つものが必要なので…」
「まあ、そうだな。とはいえ、前にも言ったが俺はろくに剣も槍も習ったことがないから教えることは出来ない。というわけでお前ら、今日はオレを殺す気でぶっ叩いてみろ。」
************************
灯里は布をぐるぐるに巻いた木剣を構える、眼の前の誠司は突っ立っているだけだ。本当にいいんだろうか、うまく避けてくれるんじゃないかと剣を振りかぶる。
「セイ!」
灯里の振るった木剣が誠司の肩口に当たるがビクともしない。
「腰が引けてるな、全力で剣を振れ。」
さして気にした様子もない誠司に、灯里はその様子にちょっと腹が立ち今度こそ全力を出すべく剣を振り上げた。
灯里は何度も剣を振るうちに、普段の素振りや打ち合いとは違う妙技や戦術もない、ただ全力で眼の前の男に
バギィ!
気がつけば手元の剣が根本から折れていた、時間にしたら5分も経っていないのに灯里は息が上がり全身から汗を流している。
「上出来だ、休んでろ。さて魔物相手だと基本力勝負になる、人間相手でも駆け引きはあるが思い切った一撃が振るえるかは大きな差だ。まあ今日はその訓練だ、次のやつ」
離れて座り込んだ灯里に誠司の言葉が上滑りしていく、灯里の眼の前では木剣をタンポ槍を持った部員達が誠司に全力で挑みかかっている。部員たちの様子に灯里は手応えを感じた。
それでも2周もすれば全員へとへとだ。何本か折れた木剣や槍が散らばっている。
「じゃあ、聞きたいこともあるだろうし訓練は終わりだな。どうする、場所を変えるか?」
「部室がありますの、そちらで。」
部員たちは誠司を連れたってぞろぞろと部室へ移動し始めた。
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