ダメなオッサンは今日もダンジョンへ潜るしインフルエンサーは目指さない

釜屋留間幾二

10年目 3月

第1話 いつものこと 1

初投稿です、色々大目に見てクレメンス




 この現代社会にダンジョンが現れて20年、それは『探索者』という新たな職業を生み出した。

 そして意外なことだが探索者の朝は早い、40歳のベテラン探索者小山誠司おやま せいじも例外ではなく…


「…寝過ごした」


 スマホで時間を確認するととっくに10時を過ぎている、内心まあいいかと気にすることもなくキッチンからロールパン2つ取り出して牛乳で流し込む。

 あとは歯を磨いて顔を洗ってジャージを着れば出勤準備完了、無精髭については無視だ。

 スマホと財布をポケットに突っ込み着替えや小物が入ったデイバッグを掴む、いつものビーサン履いて家を出て鍵を閉め、徒歩20分の職場ダンジョンへと歩き始める。

 季節は折しも3月末、通りの桜並木には花びらが舞っていた。


「春か…めんどくせえから今日は短めにしとくか」


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 ダンジョンは人の欲望が渦巻くところにできやすいというのが定説だ、東京で例えれば新宿駅と渋谷駅の中間ほどに存在する代々木ダンジョン、仕事上がりにどちらかの繁華街で豪遊して、その後夜のホテルでお姉さんと自由恋愛を楽しんで身を持ち崩す探索者が多いらしい。

 続いて上野ダンジョン、こちらは上野と言っても上野駅より若干北東方向にあり最寄り駅は入谷となる。ではなぜ上野ダンジョンなのかというと大人の情事ならぬ事情があったのだろう。

 次に府中ダンジョン、ここでは仕事上がりに最終レースに駆け込みオケラ街道を肩を落として歩いて帰る探索者をよく見かける。

 そんななかポツンとあるのが練馬ダンジョン、たしかに駅の南側には飲み屋街こそあれ他に比べれば程度は知れている、ダンジョン研究家の間ではほんとに池袋に作りたかったけど代々木と近かったから弾かれたのではとの噂だ。そんな練馬ダンジョンだが、駅すぐ北にあり交通アクセスも良いため県外からも人が来る割と人気なスポットだったりする。


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 誠司は探索者協会練馬支部の入口をくぐるとセキュリティゲート近辺に女子高生らしき子が十人近く集まっているのを眺めながらいつもの受付に向かう。


「おはようございます!今日は遅いですね!今日のおすすめはリザードマン10匹です!」


 受付で4月を迎えれば3年目になる受付嬢がいきなり理由のわからないことを言ってくる、こいつ何いってんだ?と思いながら隣の空いてるバリキャリ男子っぽいイケメンの窓口へ移動し探索者カードを差し出す。


「おはようございます、小山さん。今日のおすすめはリザードマン10匹ですよ。」


「お前らゲームのNPCか何かか?」


 カードを受け取りながらバリキャリも爽やかな笑顔で意味不明なことを言ってきた。

 誠司の皮肉にも気にせず、おたがい決まったーと喜びながらハイタッチしている。

 実際、こういった受付からのお願い事は度々あるため誠司は諦めてカウンターのセンサーに手を置いた。


「はぁ、わかったからやってくれ」


「そんなー!私というものがありながら寺島課長と浮気するんですかー!」

「小山さんがまさかそんなご趣味だったとは…、ですが私はすでに妻子ある身、小山さんのお気持ちを残念ながら受け止めることができません!はい、受付完了です。」

「お前らほんと楽しそうだな」


 小芝居を続ける受付二人に誠司はうんざりしながらカードを受け取ると、カウンターにもたれかかりゲートの方に視線をやる。


「で、アレなによ?」


「あ、近くの女子校のダンジョン部みたいです。今日は初ダンジョンの子を集めて先輩が一層を引率するそうです。」

「それで、その活動をドローンで撮影して配信サイトで配信するみたいですよ。」


 女子高生が鉄火場を生配信か世も末だな、と思いながらセキュリティゲートへ向かう。


「お土産お願いしますね~。」

「いってらっしゃいませ、お気をつけて。妻へご機嫌取りしたいので私の分もお願いします。」


 と、割とどうでもいい声援を背に受けながら。


セキュリティゲートに探索者カードと手を翳しゲートを抜ける。ゲート脇に立つ守衛ガードの自衛隊員を特に挨拶することももない、さっきのダンジョン部のキラキラした娘ならともかく、こんなくたびれたオッサンと挨拶したくもなかろう、というか十年来通い詰めてるのでお互い顔も知ってて今更だ。



 更衣室へ入ると男が一人、装備を身に着けてる最中だった。


「お、オッサンどうしたの?今日は遅いじゃん。」

「寝坊した。」


 男の名は箕輪蓮ミノワ レン、現在28歳で誠司と同じキャリア10年を持つベテランだ。探索者になったのもほぼ同時期で当時から顔を合わせることが多かった為なんだかんだ誠司とは仲が良い。


「ハッ、年じゃないのか?」

「言うなよ、気にしてんだから。で、お前は?」

「これから二週間かけて八十層へアタックだ、今度こそ絶対成功させてやる!練馬ウチのAランクはアイツラだけじゃないて言わせてやる。」


 探索者の朝は早い、これは本当だ。1日で帰還することを想定した多くの探索者は朝から活動を始める、ただし深層へ向かうチームはアタックが複数日に及ぶため昼前後を選択することも少なくない。

 そして現在練馬をメインで活動している探索者の中でAランクと呼ばれるチームは1つしか無い、次に追うのが蓮のチームとなっている。前回のアタックが惜しいところで失敗となっただけに今回に掛ける意気込みは一際強い。

 装備を身に着け終え更衣室を出ていこうとする蓮に声をかけた。


「蓮、キャンプ中に寝坊するなよ。」

「言ってろ。」


 ニヤリと笑って今度こそ更衣室を出てゆく蓮、そうして誠司も自分の準備を始めた。

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