第21話 オッサンといっしょ

 わたしの家は母子家庭だった。


 お母さんがいつも一生懸命働いて、いつも家事を頑張っていた。

 他の子の家にはお父さんという人がいると知ったのは、幼い頃だ。その時、お母さんに「お父さんってどんな人?」と聞いたら、すごく辛そうな顔をして子供心に聞いてはいけないことだったんだと思ったのを憶えている。


 でも、お父さんってどんな人なんだろうって、わたしの好奇心は止まらなかった。まずは友だちに聞いてみた。


「大きい!」

「優しい」

「かっこいい」

「怖い」

「お小遣いくれる」

「遊園地に連れて行ってくれる」

「手をぎゅっとすると安心する」


 同級生の男の子にも聞いてみた。


「デカい」

「屁がクセェ」

「声がでかい」

「色々知ってる」

「ゲンコツが痛い」

「サッカーを一緒に見に行く」


 みんなの言葉を集めても、わたしの中にお父さんは現れなかった。しょうがないからこれからも集めていこうと思って、ずっと聞いていった「貴方のお父さんはどんな人」って、小学校から中学校に上がるにつれて、みんなのお父さんへの言葉が変わっていった。


「ウザい」

「うるさい」

「臭い」

「ダサい」

「だらしない」

「オナラが臭い」

「パンツ一枚で歩き回るのはやめて欲しい」

「いつも寝てる」


 みんなお父さんの悪口をいう、でもわたしにはお父さんがいないからわからない。中学校ではお母さんを心配させたくなくて勉強も運動も頑張った。そうしたら先生から清心学院というところから特待生の案内が来ていると言われた。

 わたしはお母さんに負担をかけたくなくて、この話を一も二もなく受けた。


 清心学院に入学して、少しした頃に部活選択があったけど、中学の時にやっていたバドミントンは無かったから、新しく選ぶことにした。

 色々見ていたらダンジョン部なんて部活を見つけた。ダンジョン、わたしだって知っている。今の社会を支える繁栄と破滅の坩堝。


 曰くダンジョンで手に入る物は高く売れる

 曰くダンジョンにはどんな怪我や病気を治す薬がある

 曰くダンジョンの最奥では望むものが手に入る


 わたしはお母さんにもっと楽をさせてあげられるんじゃないかと思って入部した。


 最初の一年は辛かった、ひたすら走り、木剣や槍を振り、ダンジョンに向かう先輩たちを見送るダンジョンのダの字もない日々だった。


 一年が経ち、初めてダンジョンへ潜った際はスライム相手にこんなものかと、この一年の苦労は何だったんだろうって思った。


 二度目の探索でわたしたちは不良探索者イエローから襲撃をうけた。正直もう駄目だと思ったそんな時、わたしたちを助けてくれた人がいた。

 その人オジサンの顔を初めて見た時、わたしは思った「あんまり格好よくない」なって。その瞬間、わたしがずっと集めてきた友達の言葉が一つ嵌った気がした。


 それから、わたしはずっとオジサンを見ていた。

 ダサくて、だらしなくて、大きくて、怖くて、優しくて、格好よくて、強くて…、今までみんなから集めてきた言葉が、会う度にわたしのお父さんのピースとして埋まっていく。


 だから、わたしはオジサンの袖を掴んで言う。


「お父さん」



 でも、オナラだけは嗅がなくていいかな。

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