第6話 ラノベでよくある女子高生・ミーツ・オッサン 3
誠司達は渦を抜けて一階へ出ると、そのままロビーへ向かう。ロビーには心配していた職員や、近くの警察署から来た警察官が待っていた。
「無事で良かったー!心配したよ~。」
いつもの受付嬢がすっとんで行って女生徒達と抱き合っている。
「おう、ご苦労さん。」
「縄打ってあるから、そのまま持っていっていいぞ。」
ダンジョン犯罪の件で何度か世話になった刑事が来てたので、誠司は縄ごと引き渡そうとする。
「アホ、殺す気か!それにそいつは持ち出し厳禁だ!いいか、コイツが縄ほどいてから手錠かけろ、縄には触れるなよ!」
「チッ…」
誠司は舌打ちして縄を解いて男たちは手錠をかけられていく、不思議なことに縄の束は一定以上に大きくならず、すべて解き終えると束ねてポーチに突っ込んだ。
最後まで縄の先が誠司の指を撫でるように絡んでいたのは見間違いに違いない。
「やっぱそういうモノなんだ。」
その様子を見ていた女生徒の1人がそう呟いた。
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ダンジョン部部長 駒沢灯里
受付の
向こうでは小山さんと刑事さんが話し合っている、聞き取りでもしているのだろう。
その様子を眺めながら今日のことを思い返す。
最初、小山さんのことがすごく怖かった、今でもちょっと怖い。救助の一言で緊張感が切れた後に、影で姿を見せないまま、私達を追ってきた人たちを一方的になぎ倒す暴力見せつけられ、へたり込んでしまったことを覚えている。
顔を見てくれた後は、ちょっと恐怖が和らいだ。なんというかちょっと疲れた感じの普通のおじさんだったから、昔のテレビドラマならうらぶれた探偵のおじさんで出てきそう。
言葉遣いは荒いけど、気を使ってくれているのはわかるし、距離感はちゃんととってくれていた。
「咲希、怪我はもう大丈夫?」
「はい、大丈夫です。もう痛くありません。」
転んだ時に足を捻ったのか痛そうにしていた咲希も、貰ったポーションで回復して今は元気そうだ。
あと気になることといえば、おじさんはなんか禍々しい黒い縄で男たちを縛り上げていたときのこと。
「これから帰るわけだが、残念なお知らせが一つある。まず周りを見ないでこっちだけ見てくれ。」
「なんですか…?」
嫌な予感がして、思わず隣りにいた洋子の手を握ってしまう。
「コイツ等の仲間がまだ二人いる、本当ならコイツ等が勢子となって追い込んで、二人組が助けるふりして一緒にお楽しみの予定だったんだろうな。そいつ等がこちらを覗っている。ほら、キョロキョロしない。」
おじさんの言葉に緊張して周りを見渡したくなるのをグッと我慢する。
「君等の安全を最優先に考えているが、俺がコイツ等先に連れて歩く以上、一応気をつけて付いてきてくれ。」
「あの、私が縄を持ちましょうか?」
「危険だからダメだ。」
あの黒い縄に触りたいとは思わないが提案してみると、一考の余地もなく却下されてしまった。どう危険なのか気になる。
その後、おじさんは襲ってきた2人をあっさり返り討ちにして、探索者の理不尽な暴力を見せつけられた。他の探索者もこうなんだろうか。
その後は何事もなく今に至るわけだけど、気になったことを湊さんに聞いてみよう。
「湊さん、小山さんが持ってた黒い縄のことなんですけど…」
「あー、あれね。ちょっと待って…はいコレ!」
湊さんがダンジョンアプリから検索して、スマホの画面を差し出してくる。
「ウィオジャーレンの黒髪縄?」
ダンジョン部みんなでスマホを覗き込む。
「うん、鑑定係の人が言うにはね、異界の人魚姫にまつわる品じゃないかって。だから女性は触らないほうがいいかもって言ってたよ。」
「あ~、確かに愛憎に狂った感じのフレーバーテキストしてますね」
「やっぱり縄のほうが危険だったんですね。」
「どういうこと?」
湊さんに、男たちを縛り上げていた際のことを話す。
「多分、両方じゃないかな。縄も危険だけど、男達の方も危険、力じゃまだ全然叶わないんだし。」
「そう、ですかね。」
そうだといいなと思いつつ、もう一つの気になることを聞く。
「あの、おじさん…小山さんってどんな人なんですか?」
「そうだねぇ…灯里さんは小山さんと一緒にいてどう思った?」
湊さんはちょっと考えるような仕草をして、私の目を真っ直ぐ見て聞き返してくる。私が答えに詰まっていると、刑事さんと話が終わったのかおじさんがこっちに来る。
「おう、今日はお疲れ、買い取り済ませて家に帰りな。」
「小山さんもお疲れ様です!ご褒美にこの後私が食事に付き合ってあげます!」
湊さんのお誘いに、おじさんは露骨な嫌な顔をする。ここまで隠さない人も珍しいと思う。
「なんでそんな顔するんですか、私が誘ってそんな顔されたの初めてですよ!」
「だってお前酒癖悪そうだし、つかお前今日何時上がりだよ。」
「失礼ですね!今日は7時からだから、なんと16時上がりです!」
「結局8時間労働じゃねぇか。」
「当たり前です、なんたって私は正社員ですから。」
湊さんがおじさんと楽しそうにやり取りをしているのを見ていると、心に残った恐怖心がまた少し薄らぐ。
「わかったよ、16時な。買い取り行って着替えてくるわ。」
根負けしたのか、結局おじさんは食事の約束をさせられて買い取りブースへ向かっていく、なんとなく哀愁漂う背中がおじさんらしくて印象に残った。
「ね、あんな人です。」
湊さんが私を見て微笑んでいる。
「他の探索者さんもあんな感じなんでしょうか。」
「私はまだ2年目だし、そこまで詳しくないけど、最近の人はもっとスマートだよ。ベテランの人でもあそこまでの人はなかなかいないかな。」
それを聞いてちょっとホッとする、よく配信を見るインフルエンサーのサンジェルミン角佐藤さんも配信ではスマートなのに、実際会ってあんな感じだったら失神してしまうかも。
「支部長なんかいつもカンカンだよ~、あのクソガキー!って」
あの人なにやらかしてるんだろう、すごく気になった。
「気になるなら連絡先聞いてみたら?」
「いいんですかね?」
「さぁ、どうかなぁ。さて私もご飯のために仕事に戻らなきゃ。」
そう言って、湊さんは受付に戻っていった。
「どうしよう、連絡先聞いてみる?」
とりあえず、みんなに確認してみよう。
「聞くだけ聞いてみよっか。」
その結果こうなりました、みんなそんなに嫌じゃなさそうなのが意外だった。
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誠司は今日の分の買い取りを済まして更衣室でシャワーを浴びて着替える、アイテムバッグは後日買い手がついてから精算だ。
16時まではまだ時間があるのでジャージ姿でロビーのソファーに座りスマホいじっているが、その姿は家に居場所がなく仕方無しに公園や図書館で時間を潰すオッサンの姿そのままである。
「小山さん。」
誠司が顔を上げるとダンジョン部の5人がいる。
「あの今日は助けていただき、本当にありがとうございました。」
「「「ありがとうございました。」」」
「まあ、助かったなら何よりだ。気にするな。」
頭を下げて礼をする女生徒に、誠司は軽く答える。
「あの改めて自己紹介をさせてください、清心学院ダンジョン部部長2年、と言っても明日から3年ですが駒沢灯里です。」
「同じく2年、東洋子でっす。」
「1年、青山咲希です。」
「1年、駿河翠子。」
「1年、神奈川絵美でーす。」
「小山誠司だ、小山でもオッサンでも好きに呼んでくれ。」
「オッサン…ですか?」
灯里はそれは失礼なのではと考える。
「小山だからオッサンだ、大体ここじゃそれで通ってる。」
「オジサマ…?」
「それはやめてくれ、しょぼくれたオヤジが女子高生にオジサマと呼ばせてる喜んでると思われたら、世間体が悪すぎる。」
ポツリと翠子がつぶやくが誠司は速攻で否定する。
「オッサン!連絡先教えてください!」
洋子がスマホを差し出しながらグイグイ迫ってくる、ついでに何故か咲希も。
「すいません、差し支えなければ連絡先を交換できればと。」
「おねがいしまーす。」
スマホをすまなそうに差し出す灯里と、楽しそうに見せる絵美。
「別に構わないが、俺はこのアプリ使ってないぞ。」
5人の差し出してきたスマホの画面は、定番のメッセージアプリが表示されているが誠司はそれを使っていなかった。
「全員ダンジョンアプリは入れてるか?なら練馬支部を選んで一番下の方にある『公認非公式チャット』を選んでくれ」
ダンジョンアプリは今や探索者にとって必須ツールと言っても過言ではない。電子マネー、ダンジョン情報、階層マップ、モンスター情報、アイテム鑑定情報、ドロップ品買取価格情報、核石取引価格情報、スタンピードハザードマップ等、ダンジョンや探索者に必要な情報はこのアプリに集約されている。当然全員ダンジョンアプリは入っている。
5人は誠司に言われた通りに操作すると、別のチャットアプリが立ち上がる。
「公認?非公式?」
「ああ、ここのIT課の職員が趣味で管理してるらしくてな、支部の業務としてやってないから非公式、職員が管理してることを認めてるから公認ってことらしい。俺の知ってる練馬メインで活動してる探索者の大半は参加してる」
翠子の疑問に誠司が答える。
「自動的に練馬支部のチャンネルに参加するから、あとはこうメンバー一覧を表示して……。」
誠司が自分の画面を見せながら操作するが、さすが現代っ子全員迷いもなく操作していく。その内フレンド登録が5件届く。
「DMでも何でも好きに送れ、ただダンジョンに入ってる時は基本的に電源切ってるから即レスとかは期待するな。」
「わかりました。」
「よし、わかったら手を出せ。」
灯里は言われるままに手を出すと、その上に1万円札が二枚置かれる。
「電子マネーでもいいんだが、なんとなく有り難みがないからな。これでうまいもんでも食ってさっさと帰れ。」
「えー、これがホ別2ってやつ~?」
「バカ、自分をそんなに安売りすんな。」
絵美は楽しそうにからかい、誠司は鼻で笑って返す。灯里はその様子を見てもう大丈夫だと感じ立ち上がった。
「では、そろそろ帰ります。お疲れ様でした。」
「ごちそうさまでーっす。」
「おつかれさまです。」
「バイバイ」
「まったね~!」
灯里たちは受付を済まして、練馬支部から出る。建物から出て一気に開放感が押し寄せてきたせいかお腹がくうくうなり始めた。
「あ~、なんか一気にお腹空いてきたー。何食べに行こっか?」
「最近新しくできたケーキ屋さんがあるよ!そこ行ってみませんか~。」
「シュークリーム食べたい。」
「わたしチーズケーキがいいです。」
「じゃあ、そこに行きましょうか!」
「「「お~!」」」
大変なこともあったけどまだまだ日は高い、女子高生達にとって1日は始まったばかりだ。
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