第27話 ラヴェンナさんと結婚しなければ処刑します
「アレッサンダル、ラヴェンナさんと結婚しなさい」
日が落ちたので採掘作業が終えて、私達は屋敷に帰った。彼と女王陛下も今日はこちらに泊まる予定のようだ。
夕暮れの光が窓から射し込み4人で夕食をとる中で、女王陛下はアレッサンダル様に、冷たく言い放った。
その表情は今まで私に見せてきた様な親しみ溢れたものではなく、元首としての威厳と冷酷さに満ちていた。
その落差に戸惑いを感じた私は、思わず食事の手を止めた。
「お言葉ですが伯母上……」
「これは女王の勅命です。異を唱えるのであれば反逆とみなし、アナタを処刑します」
「……」
アレッサンダル様は、無言で俯いた。その表情からは、重圧と葛藤が伝わってくる。
採掘場での女王陛下や彼の言葉を聞いてアレッサンダル様も私の事を思っていると、浮かれていた節があった。
だが、この表情を見る限り、それは間違いのようだ。どうして女王陛下が私の事をここまで高く評価してくれているかは分からないが、アレッサンダル様にご迷惑をおかけしてしまっている事に、強い申し訳なさを覚える。
困惑する私に、女王陛下は、今まで見せてきた親しみに溢れた笑顔で話しかけてきた。
「ラヴェンナさん、私はアナタをとても評価しています。アナタの力で、この地は大きく変わりました。不出来な甥御ですが、なんとかこれからも力になってあげてください」
「アレッサンダル様は不出来な甥御などではありません! 誰よりも領民の事を考えている素晴らしい領主です! それを私の様な田舎者の奴隷と結婚させるなど正気の沙汰ではありません! 女王陛下のご判断は間違っております!」
言ってしまった。ヴィヒレアのヴェルデ女王陛下の判断に、ここまで強く異を唱える人間など世界中どこを探してもいないだろう。恐らく私は処刑される。怖くて足の震えが止まらない。だが、アレッサンダル様に、ご迷惑をかけてしまう位ならば死んだ方がマシだ。
一方の女王陛下は、どこか楽しそうな表情で言葉を返してきた。
「いいえ、アレッサンダルは不出来です。今回はテストとして、温泉の源泉があるので復興が容易な、バルダハール領に領主として赴任させたのですが、結局、自分で源泉を見つける事ができませんでした。更にそれ以外の復興事業も、ラヴェンナさんがいなければ成しえませんでした。つまりアナタがいなければ、アレッサンダルは何もできず挫折して終わったのです!」
「ですが、領主がアレッサンダル様で無ければ、私もここまで力を発揮できなかったと確信しています!」
楽しげに微笑を浮かべている女王陛下に、必死で詰め寄る。
「……伯母上、よろしいでしょうか?」
アレッサンダル様が深く息を吸い込み、女王陛下を真剣な表情で見つめた。そして、しばしの沈黙の後、再び口を開く。
「ラヴェンナがいてくれたからこそ、この領をここまで復興させる事ができました。彼女には、これからも私の隣で未熟な私を支えて欲しいです。ただこれは私のエゴです。ラヴェンナの幸せを考えれば、奴隷という身分から解放し、自由な人生を歩ませるべきだと考えています。まして好きでもない私との結婚など彼女にとって不幸でしかありません。」
「ほう。随分と偉そうなことを私に言うようになりましたね。ラヴェンナさん、このアレッサンダルの言葉を聞いてどう思いましたか?」
アレッサンダル様の気持ちを知り、心が震えた。もう奴隷だ、田舎者だなどと自分を卑下しては逆に失礼だ。目を涙で溢れさせて、むせ返りながらなんとか言葉をひねり出す。
「アレッサンダル様の言葉に深く感銘を受けました。彼が、私の幸せを真剣に考えてくれている。私には、それが何よりの幸福です。これからもアレッサンダル様が私をそばに置きたいと望むのであれば、私は喜んでその願いに応えたいと思います」
言い終わると同時にアレッサンダル様にギュッと抱きしめられた。暖かい温もりが身体に伝わり、身体が溶けそうになる。
「ラヴェンナ……」
「アレッサンダル様……」
強い幸福感にかられながら、私達は互いを見つめ合ってた。
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