第14話 アレッサンダルの憂鬱

「ラヴェンナ、少しゲス勇者を話す。申し訳ないが席を外してもらえるか?」

「なりません! なにかあれば……」


 アレッサンダルの言葉にラヴェンナはひどく驚いた表情を浮かべた。

 何か危険なことが起きると思い、不安になっているようだ。

 恐らくゲス勇者は、秘密裏に自分が依頼をした別件の報告に来たのだろう。


「お前は僕の奴隷だ! 命令を聞けないとはどういう事だ! 良いから立ち去れ!」


 高圧的に強く怒鳴った事に、強い罪悪感と自己嫌悪を覚えた。

 だが、どんな依頼の内容を彼女にはどうしても悟られたくない。

 ここはなんとか、この場を外してもらわなければ。


「……かしこまりました」


 瞳を潤ませ唇を噛みながら、ラヴェンナは退出する。


「坊ちゃん、よろしかったんですか?」

「ラヴェンナに聞かれる訳にはいかないのでな」


アレッサンダルは深いため息をついた後に口を開いた。


「……グリマルディ王国の様子はどうだったのだ?」

「ひでえもんです。アホな王子とラヴェンナの妹のアホな婚約者が無茶苦茶やって、財政が崩壊寸前です。不満を持つ国民もどんどん増えてますね」

「そんなに贅沢な暮らしをしているのか?」

「それもありますが、身の丈に合わない政策や事業をいっぱいやってる事が原因ですね。本人たちは良い事をしているつもりになんで、手に負えません」

「どんな事をやっているのだ?」

「なんでも憧れのヴィヒレア連合王国の様な国にするとか言って、世界的有数の大きさをほこる巨大な城の建設、国際的な商業都市を開発するためのインフラ整備に強制移住、沢山の農地を潰して巨大な公園の開発……他にもあげてきゃキリがないです」

「ちょっと待て。国際的な商業都市や巨大な城の建設を、何もない状態から同時に行うなど、我が国の資源や資金でも足りないではないか? しかも国の基盤たる農地を沢山潰しているだと!?」

「ええ。ちょっと召し上げる位なら分かるんですが、とんでもねえ量の農地を強制的に取り上げてます。間違いなく食糧不足になりますね。ちなみに地上げ代とかも渡してないみたいです」

「我が国に憧れているとの事だが、我が国にその様な愚かな為政者は存在しないぞ。どうしてこの様な事になっているのだ?」

「アイツら全員、田舎の国のバカな田舎っぺですからね。変な幻想を勝手に抱いてて、現実が全く見えてないんですよ。こりゃ国滅ぶのも、時間の問題っすね。俺はその前に、あそこから出来る限りのもん盗んで損失の穴埋めするつもりっす。あ~忙しい」


 アレッサンダルは、頭を抱えた。

 ラヴェンナの故郷への想いは、非常に強い。

 バルダハール領復興の目途が立ち次第、奴隷の役目から解放して、故郷に送り届けるつもりだった。だがこのままだと、彼女を安心して送り出すことができなそうだ。


「ラヴェンナ……僕はどうすればいい」


 考えたことが、思わず口に出てしまった。

つぶやきを聞いたゲス勇者の顔色は青白くなっていた。


「わ、わたしは、あの女の販売をしただけです! それ以外の縁もゆかりもなにもありません! 坊ちゃまは、あの女と末永く、お幸せな人生を過ごしてください!」


(縁もゆかりも深いものがあるだろうが)


 ゲス勇者とラヴェンナの関係など、瞳を見れば、この西側地域に住んでいる人間ならば、だいたい察しがつく。

 本来ならばこの男には、ラヴェンナが成人するまで養う義務がある。

そうヴィヒレアの法には定められている。

しかし、あくまでもしらばっくれようとしているようだ。

 最も好都合な事ではある。領の復興が終わっても、こんな男にラヴェンナを預ける訳にはいかない。


「なんの事を言ってるんだ?」

「へ、へへへ……なんでもないです」


 ゲス勇者を無視して、アレッサンダルは再びラヴェンナの為に考えを巡らせる。


「あのう、坊ちゃま。実はグリマルディに行ったとき気になることがありまして」

「気になること?」

「実はヴェルデのところの兵隊が、結構な数いたんですよ」

「伯母上の密偵など、世界各地にいない方がおかしいではないか」

「いやあ、それでもあの数は尋常はじゃねえです」

「……グリマルディへは、前王の墓参りを兼ねた表敬訪問が予定されていると聞く。その影響ではないのか?」

「それにしては物々しかったんですよ。それにあの女が絡むとなると、基本ろくでもない事です」


(グリマルディへの表敬訪問は単なる儀礼ではないかもしれない。もしかすると、何か大きな計画が進行中なのか……)


 さらに深く考え込む中、アレッサンダルはとんでもない事に気づいた。


「貴様、女王である我が叔母を呼び捨てにした上に、そのような物言いをしてどういうつもりだ!」

「ひいいい。すいません、坊ちゃまお許しください」


 凄まれたゲス勇者は、情けない泣き声をあげながら逃げていった。


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