第34話 お父さん

「なにいい! お前の変態親父がいるのか!? どこだ! とっ捕まえてやる!」


 お父さんという言葉に動揺した後、彼は私と視線を合わさず、話を誤魔化そうとしてきた。露骨すぎて滑稽だが、それで終わる訳にはいかないので話を進める。


「とぼけないでください! お父さん!」

「なるほど、アイツがお前の実の親父だったのか! よし、感動の再会が出来るように、声を掛けやる! おーい!」


 今度は偶然ここを通りがかった男性に、手を振って呼び止めようとし始めた。このままでは埒が明かないので、逃げられない言い方をする。


「ヒセキ・コウスケさん! アナタが私のお父さんです!」


 今までで一番滑稽な動揺した表情を浮かべた後、彼は大きく深呼吸をして、落ち着きを取り戻した。


「なるほど、お前は初代勇者の血を引いているから、当代の勇者の俺を、実の父親だと思っているんだな」

「はい。私は、ヴァルディエ家の長女に列席されていました。ヴァルディエ家の直系当主の血筋である母の子であることは間違いありません。ですが、父だった人は黒目黒髪ではないので、勇者の血族ではありません。そんな状況で片目が黒いオッドアイの私が生まれてくるはずがありません。」

「ヴァ、ヴァルディエ家自体が、勇者の血族の家系なんじゃねえのか?」

「それこそあり得ません! きちんとした家系図が残っていますし、もしそうならば、母と妹のセリーナにも黒目、黒髪といった勇者の血族の特徴が現れるはずです」

「う、う、うーん。だからって言って俺が父親ってのは、単純に考えすぎだって思うんだかなあ」

「とぼけないでください! 勇者の血族は、人数自体がとても少ない上に、定住地である勇者の里から出てくることは、ほとんどありません。この西側地域にいて母と関われる環境にあったのは、あなたしかいないんです!」


 私に詰め寄られたお父さんは、挙動不審な動きで周囲を見回した。そして、今までの下衆な表情が嘘のような凛とした顔つきで静かに首を横に振った。


「面白い仮説だが、大きな間違いがある。初代勇者の血を引く勇者の血族は、俺以外にもそこら中にウジャウジャいる」

「嘘を言わないでください! この地域にはアナタ以外いない事は、皆知っています!」

「そんな事実と異なる噂を流されて、俺は迷惑しているんだ。ほら……」


 お父さんが指差した方向を見ると、昨日、見本市で会った鬼(オーガ)とエルフの女の子が歩いていた。沢山の人達を接客したが、彼女達には何故か強い親近感を抱いたので、鮮明に覚えている。


「あの子達がなんだと言うのですか?」

「あのクソガキ共の目を見てみろよ」

「え? 片目が黒のオッドアイ!?」


 昨日は忙しさに追われて気づかなかったが……これが彼女達に強い親近感を抱いた理由なのか。


「勇者の血族なんて、ヴェルジュには、そこら中にいる」


 王都ヴェルジュは色んな文化を持った多様な人種が集まる、世界的な巨大都市だ。ここでは世界的に稀少な勇者の血族も多いのかもしれない。

 だとしたら、彼が私の実父であるとは断言できない。

 だが、彼の言動で気になっている事がある。先ほどから、凛とした表情で堂々と喋っているのだが、その一方で、あの娘達から見えないように私の背後に隠れ、身を縮こめているのだ。


「あの娘たち、お知合いですか?」

「い、いや、全然知らねえ。他人だ」


挙動不審な行動に疑念が募る中、彼女達が私に気づき声をかけてきた。


「あー! 昨日のお姉さんだ!」

「おまけの香水も本当に良かったです! ありがとうございました!」

「ううん。こちらこそ気に入ってもらって、なによりよ」


楽しく談笑していると、鬼の女の子が私の背後にいる彼を見て目を細めた。


「ねえ、パパ。ここでなにしてるの? また何か悪いことしてるの?」


 パパ? 鬼の女の子は確かにそう言った。思いがけない言葉に、頭は混乱する。彼は震えながら、身体を縮こませ続けている。

 一方、エルフの女の子は、冷めた目で彼を見ながら口を開いた。


「スカーレット、お姉さんの目の色、もしかして気づいてないの?」

「え? 片目が黒い! じゃあこのお姉さんもアタシとヴィオレと同じで、パパの娘なの!?」

「はあ……これでいったい何人目なのよ」


 思いがけない発言の数々に、混乱し続ける中、彼が声を荒げた。


「0人だ! こいつもてめえらも俺の子供じゃねえ!」

「なに言ってんの! この片目が、ワタシ達がパパの子供であるなによりの証拠よ!」

「勇者の血族なんてこの辺じゃ、パパしかいないじゃん!」

「てめえらの母親とそういうことをしてぇ勇者の血族の男が、態々勇者の里から出てきて、俺の名前を騙ってそういうことして、てめえらができたんだ! 俺は名前を騙られた無関係な被害者だ!」

「そんな言い訳、通用するわけないでしょ!」

「ねえ、パパはなんでアタシ達を、いつまでも自分の子供として認めないのかな?」

「子供って認めたら、成人するまで養育の義務が発生するからよ。子供じゃないけどワタシ達を育ててるって体にしておけば、どこかでなにかの理由をつけて逃げる事ができるじゃない」

「なるほど。あと、思ったんだけど実の子供だって認めたら、私達が結婚した時に結納金払ったりとか、お祝いの家具を買ったりとかしなきゃいけなくなるよね。それも嫌なんじゃないかな」

「すごいわね! それも間違いないと思う」

「な、なに言ってんだ……てめえら」


 彼、いやお父さんは、彼女たちの発言に、冷や汗をダラダラ流している。……確かに、お父さんはそういう人だ。それに合わせたやり方で、追及しよう。


「お父さん」

「だ、だから違う。こ、このクソガキ共は、適当な嘘八百言ってんだ」

「いいえ、アナタは私のお父さんです。お母さんを捨てた慰謝料と17年間の私の養育費、それとアレッサンダル様と婚約しましたので、その結納金をアナタに請求します」

「だから違う! 違う! 俺はお前の親父じゃねええええ!」


 お父さんは大人げなく泣き叫び始めた。ここで助け舟を出す。すごく無理矢理なので、ひっかかってくれる自信はないが……。


「じゃあ、グリマルディが今、どうなっているか教えてください! そうしてくれたら、お金の要求は一切しません!」

「よし――」


 これまで固く黙秘していたグリマルディの現状を、お父さんはベラベラと喋り始めた。その変わり身にはあきれ果てたが、グリマルディの現状を知るにつれて、そんなことはどうでも良くなっていった。


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ご拝読頂きましてありがとうございます。

一応、こちらの過去作と話しがリンクしておりますので、お手すきの時にご覧ください。この作品が面白いと思って頂けましたら★とフォローをお願いします。


調子に乗ってざまあされたゲス勇者、娘たちに逆襲されるの巻

https://kakuyomu.jp/works/16817330661669850238

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