第7話 悪役パート:馬鹿な王子と妹、変態な父親は自滅に向かい暴走中

「セリーナと婚約し本当に良かったよ。ラヴェンナとは比べものにならない。君は賢く、美しく、まさに王妃にふさわしい」


 新しい婚約者、セリーナ嬢を目の前にしてエドワード王子は大変上機嫌だ。

 文官はそれを少し離れた場所から見ていた。


「お言葉嬉しく思います殿下。姉さまのような平民に混じって農作業をしている様な田舎娘では、我が国をヴィヒレアのような栄光ある国にすることなど不可能ですからね」

「全くだ。ゴメスの悪事すら見抜けるような無能な女との婚約など白紙にして正解だった。これからは私の妃としてヴィヒレアの王都ヴェルジュで培った聡明な力を活かして欲しい」

「かしこまりました! 殿下、早速ですが私の提案を聞いて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

「なんだ申してみよ」

「はい! 我が国の都をヴィヒレアの王都のヴェルジュに倣った大都市にする大規模工事を行いましょう!」

「素晴らしい! ラヴェンナのような古い仕来りに囚われ、実用性のない魔法にばかり熱中していた田舎娘には、こんな大胆で前向きなアイデアは絶対に思いつかない!」

「ただ、財政をかなり圧迫しますし、伝統だと言って多くの人が崇めている建物をいくつか壊すことになるのですが、大丈夫でしょうか?」

「かまわん! 私はいずれ王になるのだ! そんなものは、ねじ伏せる!」

「ああ! 殿下、頼もしくて素敵です!」


 エドワード王子の言葉に、セリーナ嬢は目を輝かせている。2人の間に流れる空気は、古い世界を引き裂き、新たな時代を切り開く勢いで満ちていた。


(そんな事をしてしまっては、グリマルディ王国が無茶苦茶になってしまうではないか……)


 エドワード王子とセリーナ嬢の会話を横で聞いていた文官は、顔を青くする。


大規模な都市改造を行う予算はない。作ってしまえば大きな利益が出て回収できると思っているのかも知れないが、ヴィヒレアとグリマルディでは経済規模が違う。エドワード王子とセリーナ嬢が考えているであろうほどの税収の増加は絶対に見込めない。

更に数世代にわたって築かれてきた伝統と文化遺産を破壊しては、身分関係なく多くの国民が強い不満を持つ。

エドワード王子は、それを力づくで、ねじ伏せるつもりなのかも知れない。だが、そんな事をしては国が滅んでしまう可能性すらある。



(一刻も早くなんとかしなければ!)


 文官は一緒に登城してきているセリーナの父、デューク伯のもとに向かった。デューク伯は聡明な方で強い権限も持っている。きっとこの2人を諫めてくれるはずだ。

 そう思い伯がいる部屋を訪ねた。


「失礼します」

「なんだ! ラヴェンナは見つかったのか!?」

「は?」

「それ以外の話など私のところに持ってくるな!」

「し、しかし、エドワード王子とセリーナ嬢が……」

「どうせ我が国の規模や伝統も考えずにヴィヒレアの様な国にするとかバカな計画を立てていたのだろう! そんな下らぬもの捨て置け!」


 感情的になり、一切話を聞こうとしない……。この様なデューク伯を見るのは始めだ。文官がどうすれば良いのか分からず立ち尽くす中、衛兵長がやってきた。


「申し上げます。ラヴェンナ様の行方は依然として不明で……」


 言い終わる前にデューク伯は衛兵長を殴りつけた。衛兵長は気を失い地面に倒れ込む。温厚なデューク伯が手を上げるなど信じられない。

いや、それ以前になんの権限があって王の臣下である衛兵に命令しているのだろうか。有力者であるとはいえ王の臣下であるにも関わらず越権行為だ。デューク伯がそれを知らない訳がない。

 文官が困惑する中、デューク伯は怒号を上げ始めた。


「ええい! 役立たずが! お前は死刑だ! それまで牢に入っていろ!」


 この場にいた者たちは凍りついた。大切な娘が訳の分からない者にさらわれてしまったとはいえ、聡明な人格者であるデューク伯の言葉とは思えない。


「ああ、ラベンナ……私のラヴェンナああああ!」


一同が恐怖し困惑するなか、デューク伯は突如号泣しながら始めた。


(情緒がとても不安定になってる……)


 この国はどうなってしまうのだろうか? 不安と恐怖で文官は押しつぶされそうだった。



「そうか。随分と辛い想いをしてきたのだな」


 私のこれまでのいきさつを聞いたご主人様は、悲しみに溢れた瞳を向けてつぶやいた。

 この方は悪い方ではないようだ。


「グリマルディ……確か我が国と国境を接している小国か。この領のからはそう遠くない場所にあったような気がする。詳しい場所までは分からぬが」


 この言葉に私はカチンときた。確かにヴィヒレアに比べればグリマルディは、けし粒の様な国だ。隣国とはいえ、詳しい事を知らないのは仕方がないかも知れない。だが、私たちは私たちで文化を守り、歴史をこれまで紡いできた。


「お言葉ですがご主人様、グリマルディは小さいながらも独自の文化と歴史を持つ自然豊かな国です! ヴィヒレアから見たら些細なつまらない国なのかも知れませんが私達は、それに誇りを持っています!」


 ここで私は今の自分の立場に気づく。そう私はこの方の奴隷、グリマルディの貴族であったのは昔のこと、気持ちを切り替えなければ。


「申し訳ございません、ご主人様。……立場をわきまえぬ事を申してしまいました!」

「いや、大丈夫だ。故郷への愛情を感じることができて、むしろ私は嬉しい。お前のように強い気持ちを持った者がいるということは、グリマルディもまた素晴らしい国なのだろう」

「も、勿体ないお言葉です」

「あとご主人様というのは止めてくれないか? アレッサンダルでいい」

「いえ、それは、私は奴隷……」

「ああ、奴隷の主人として命令している。だから従ってくれ。それにさっきはお前と言ったが、そんな言い方は無礼だったな。名前はラヴェンナだったか? これからはそう呼ばせてもらう」

「も、勿体ないお言葉です。ありがとうございます、アレッサンダル様!」


 恐縮しながら、私は深々と頭を下げた。


「堅苦しいのが嫌いなだけだから気にしないでくれ」


 アレッサンダル様は優しく私に微笑みかけてきた。

 それを見て私の動悸は激しくなる。

 いったいどうしたのだろうか?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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