第9話 私の力で領を復興する???
「ラヴェンナ、この領をどう思う?」
朝食を終え、私はアレッサンダル様に誘われて領地を一緒に見て回っていた。
「その……なんと申しますか……」
「遠慮しなくていい。率直な感想が欲しい」
「ヴィヒレアは、華やかな都市が国土全土に広がる発展した国だと考えていました。この領地の様に農村があることにまず驚きました」
「そんなのは王都ヴェルジュや古都アルカーディアみたいな一部の大都市だけだ。我が国は世界一の農業大国で、人里の大半は農村地帯だ。それがこの国を基盤として支えている」
「農業が……基盤ですか?」
この領の土壌は見るからにやせ細り、養分を全く含んでいない。
そのせいで領民たちも生活に困窮していることが、一目瞭然だった。
だが、土壌がやせ細っている理由が分からない。
この領地の水はけは悪くない。むしろ豊かだ。気候も温暖で作物は育てやすいはずである。
普通に考えるならば、かなり農地には適した場所だ。
ならば領地の統治者の無能か怠慢で、満足いく施策が講じられるこの様なことになっているのだろうか?
いや、それはない。アレッサンダル様には昨日初めてあったが、とても誠実な方で、昨日も夜遅くまで机に向かい一生懸命政務に励まれていた。
ならば何故?
「確かに。農地がこんなになっていては、農業が基盤だなどと言っても、どの口が言っているのかと思われてしまうな」
「い、いえ、その様な事は……」
「隠さなくても言い。自分で言っていて、そう思った。理由は一重に僕が無能な領主だからだ」
焦る私を尻目に、アレッサンダル様は言葉を続けた。
「このバルダハール領は、魔族との戦争の激戦地でね。その時になんとか勝利はできたんだが、土壌を劣化する呪いをかけられてこうなったらしい。それまでは、国内でも有数の農業地帯だったらしいんだが」
「恐れながら殿下、呪いならば解呪魔法で状況は打開できるのではないでしょうか? 領地全体となれば一朝一夕にはいかないでしょうが、ヴィヒレアには世界的な魔法の権威がいらっしゃいます」
「今までそれを考えなかったと思うかい?」
確かに。考えない方がおかしい。
「賢者先生の話では、この呪いは掛けた術者以外では無理だそうだ。そして術者は既に、この世にはいない。聖女様ならばこの呪いを解くことができるかも知れないらしいが、知っての通り聖女様は、もうこの世界にはいない」
「ならばどうすれば良いのです。もう打つ手でがないではありませんか?」
「いや、何度も肥料を撒いたり、浄化の魔法を使ったりして、少しだけ土壌の質が回復し、なんとか作物が育つようになった場所はある。本当にごく僅かな農地で、ほんの少しだけ良くなっただけだけどね」
「領地全部の農地の土壌が回復するまで、いったいどれほど歳月がかかる見込みなのですか?」
「最短であと300年。それが賢者先生の出した試算だな」
「そんな……それでは、この領は滅ぶしかないではないですか!」
「ああ。打開策がないので、そうなるしかない。だから僕は無能な領主なのさ」
アレッサンダル様はこの領に赴任されて半年だと聞いている。それまでどれだけ重い責任を背負いながら、苦しんできたのだろうか。
「だが、それも昨日までの話さ。ラヴェンナ、君が来てくれたおかげで、この状況が打開できそうだ」
私が来たおかげで状況が打開できる? この絶望的な状況を私がどうにかできるはずなどない。
だが、アレッサンダル様は、本気で私でどうにか出来ると思っているようだ。どういう事なのかしばらく考えたが、なんとか理解できた。
「分かりました! 私の魔法で多くの人を楽しませます!」
アレッサンダル様は私の珍しい魔法を大道芸として国内外に広め、多くの人を観光目的で領に呼び込もうとしているに違いない。そうすれば観光収入が領地の主な収益源になり、農業に依存しない経済が確立する。民もそれに合わせて、農作から観光客を対象とした仕事に切り替える人が多く出てくるだろう。そうすれば領は再び繁栄することができる。
だが、力強く答えた私をアレッサンダル様は困った顔で見ている。
「いや、ラヴェンナ、君の魔法は大道芸以外にも使い道はあるんだ。聞くが君の魔法は植物からあらゆる成分を自由に抜き取ることが可能かい?」
「はい、その植物に含まれるものであれば大丈夫です」
「そうか。それを他の物質に付加することはできるかい?」
「はい、趣味でアロマストーンも作っていましたので」
「そうか」
アレッサンダル様が、力強い笑みを浮かべた。
その訳が分からず私は首を傾げた。
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